ストーカー被害の慰謝料を請求したい! 示談金や訴訟の流れを解説
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大阪府警察が令和元年に公表した「平成30年度における犯罪被害者等支援施策の実施状況」によると、平成30年中におけるストーカー被害の相談件数は1152件でした。ピークとなった平成25年に1720件を記録して以来、わずかな増減を繰り返しながらも全体的には減少傾向にあります。しかし大阪府の人口が平成22年から減少している背景を考慮すれば、依然として多くの大阪府民の方がストーカーの被害に遭っていることが伺えます。
岸和田市では令和2年4月号の「広報きしわだ」においてストーカー被害の相談先を広報しながら「ひとりで悩まず相談を」と呼びかけています。
卑劣なストーカー被害に遭ってしまうと、深い精神的な苦痛やショックを受け、その後の社会生活に影響が出る方もいます。そのため、加害者にしかるべき賠償を求めたいと考えるのは当然の感情といえるでしょう。
このコラムでは、ストーカー行為の被害に苦しめられた場合に、加害者に対して慰謝料などの損害賠償を請求する方法について、岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、「ストーカー」とみなされる具体的な行為
ストーカーという言葉は一般的に広く知られていますが、実は厳密な定義があります。法的にストーカーとして規制を受けるのは、ストーカー行為等の規制等に関する法律(通称:ストーカー規制法)の定めに該当した場合です。
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(1)ストーカーとは
ストーカーとは、特定の人に対する好意の感情や、好意がかなわなかったことによる怨恨の感情をもとに「つきまとい等」の行為をはたらくことです。
一般用語として使用されるストーカーとは、特定の人物に尾行やいやがらせをはたらく人のことを指しますが、ストーカー規制法第2条1項の定めによれば、好意の感情または好意に基づく怨恨の感情がない限りストーカーとはみなされません。つまり、個人的な恨みがある、対立関係にあるなどの理由でいやがらせをしてもストーカーとはいえないのです。 -
(2)つきまとい等とは
ストーカー規制法第2条1項では、次の各8類型の行為について「つきまとい等」と定義しています。
- ①住居や勤務先などでのつきまとい・待ち伏せ・進路への立ちふさがり・見張り・押しかけ・付近をみだりにうろつく
- ②監視していると思わせるような旨を伝える
- ③面会・交際・そのほか義務のないことを行うよう要求する
- ④著しく粗野・乱暴な言動
- ⑤無言電話、拒絶後の連続した電話・ファクス・電子メール・SNS・ブログなどへの返信
- ⑥汚物・動物の死体などの送付
- ⑦名誉を害する事項の告知
- ⑧性的羞恥心を害する事項の告知・性的羞恥心を害する電磁的記録などの送信
つきまとい等にあたる行為があったとしても、ただちにストーカーであると断定されるわけではないという点には注意が必要です。
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(3)ストーカー行為とは
ストーカー規制法が定める「ストーカー行為」とは、特定の人に対して8類型のつきまとい等にあたる行為を反復しておこなうことを指します(ストーカー規制法第2条3項)。つまり、つきまとい等にあたる行為の被害を受けたとしても、その回数が一度限りであったようなケースはストーカーにあたりません。
また、8類型のつきまとい等にあたる行為のうち、①~④及び⑤の連続したメッセージ送信については、身体の安全、住居などの平穏もしくは名誉が害され、行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法でおこなわれる場合に限られます。
ストーカー行為をはたらいた者には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます(ストーカー規制法第18条)。
2、「警告」や「禁止命令」でストーカー行為を防御する
ストーカー規制法では、ストーカーの加害者を罰するだけでなく、ストーカー被害を防御するための方策も整備されています。それが「警告」と「禁止命令」です。
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(1)警告とは
ストーカー被害が発生している場合は、被害者からの申し出によって「警告」を与えることが可能です。
警告そのものには法的な強制力はありません。ただし、警告を受けたうえで再び警告されたつきまとい等にあたる行為があれば、ストーカー規制法違反として1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。 -
(2)禁止命令とは
警告による効果が期待できない場合は、公安委員会による「禁止命令」の発出も可能です。禁止命令は文字通りの命令なので、禁止された行為をはたらくと禁止命令違反として厳重に処罰されます。
旧来は警告を経ないかぎり禁止命令を発出できませんでしたが、平成28年のストーカー規制法改正によって、緊急を要する場合は警告を経ることなく発出されるようになりました。禁止命令に違反してストーカー行為をはたらいた者には、つきまとい等よりも厳しい2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられます(ストーカー規制法第19条)。 -
(3)警告・禁止命令と慰謝料請求は別物
警告・禁止命令はストーカー被害をやめさせるための防御策として非常に有効です。また、警告や禁止命令を発出してもらわなくても、被害届・告訴状を提出すれば刑事事件として相手に処罰を与えることもできます。
ただし、防御策を講じることや刑事事件として扱うことと慰謝料の請求はまったくの別物であるという点は誤解のないように心得ておくべきです。警察や公安委員会が「ストーカーだ」と断定したとしても、相手から自動的に慰謝料が支払われるわけではありません。慰謝料を請求するには、刑事とは別の手続きを経る必要があります。
3、ストーカーに慰謝料を請求する方法
ストーカー被害を受けて加害者に慰謝料を請求する方法は2つです。
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(1)加害者との示談交渉
被害者がストーカー加害者との間で話し合いを進めて慰謝料を請求する方法です。「示談」とは、争いごとやトラブルを法的な手続きを経ることなく当事者間だけの話し合いで解決する方法で、ストーカー事件だけでなくさまざまな刑事事件において示談による解決が図られています。
加害者との示談交渉では、ストーカー行為についての謝罪と今後はストーカー行為を繰り返さないことの誓約に加えて、ストーカー行為によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料を話し合います。また、ストーカー被害によって体調を崩してしまった、会社を休むことになり収入が減少した、通勤ルート・方法を変更して出費が増えたなどの損害賠償を求めることも可能です。これらの交換条件として、被害者は被害届や告訴状の提出を見送り、加害者の過去のストーカー行為を許すのが一般的な交渉となります。 -
(2)訴訟による損害賠償請求
ストーカー加害者が示談に応じない、真摯な反省がない、示談金の折り合いがつかないといった状況があれば、裁判所に訴訟を提起して損害賠償を求めることになるでしょう。訴訟を提起すれば、被害の状況や被害者が受けた精神的苦痛などをもとに裁判官が判決を下します。判決によって賠償命令が下されれば、加害者が賠償金の支払いを拒んでも財産の差し押さえなどの強制手段が可能です。
また、示談交渉によって解決する場合は「示談金の支払いを受けることで加害者を許す」とするのが一般的ですが、訴訟によれば加害者を許す必要がありません。加害者のことを許せないので刑事罰を与えたいが賠償金もしっかりと支払ってもらいたいと考えるなら、訴訟による解決が最善策となるでしょう。
4、ストーカー被害を弁護士に相談するメリット
ストーカー被害を受けて加害者に慰謝料を請求したいと考えるなら、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)加害者に会うことなく示談交渉が進められる
テレビドラマなどに登場するストーカーといえば、粘着質で陰湿な人物が一方的に好意を抱いてつきまとい等の行為に走るイメージがあるでしょう。
ところが、実際の事例では元恋人・友人・同僚などによるストーカー行為も多く、被害者としても「ただちに逮捕してほしいとまでは考えない」といったケースも少なくありません。警察への届け出さえも戸惑ってしまうような相手が加害者であれば、示談交渉による解決が現実的ですが、一対一で示談交渉を進めるのは危険なうえに解決も困難なケースが多いでしょう。
ストーカー加害者との示談交渉は、弁護士を公正な代理人として加害者と面接せずに進めるのが最善策です。数多くのストーカー事件を取り扱ってきた弁護士に相談すれば、適切な慰謝料・示談金の提示や示談書の作成なども一任できます。 -
(2)訴訟などの手続きを代理人として進めてくれる
ストーカー加害者が示談に応じない、卑劣なストーカー行為に遭い許せないので刑事罰を与えたいと考えるなら、訴訟による解決を図ることになります。個人で裁判所に訴えて慰謝料などの損害賠償を請求するのは手続きが煩雑なので、弁護士に依頼して代理人として進めてもらうべきでしょう。
弁護士を代理人とすれば、必要な証拠の収集や裁判への出廷などもすべて一任できます。身辺の安全を第一に考えるなら、避難・防御を徹底したうえで弁護士に訴訟を進めてもらうのがベストです。
5、まとめ
ストーカー被害に遭ってしまうと、平穏な生活を送れなくなってしまいます。外出さえもおそろしくなり、会社や学校へ通うこともできなくなるケースも少なくありません。ストーカー加害者に対する慰謝料請求はもちろん可能ですが、個人で示談交渉や訴訟を進めていくのは困難です。
ストーカー被害に遭い、加害者に対して慰謝料を請求したいとお考えなら、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスにお任せください。ストーカー問題の解決実績を豊富にもつ弁護士が、適切なアドバイスと徹底したサポートでトラブルを解決します。すでに警察に届け出をして相手が処罰されたあとでも慰謝料請求は可能なので、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています