工事の騒音・振動がひどい! 法的規制や損害賠償請求はできるのか

2021年08月16日
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工事の騒音・振動がひどい! 法的規制や損害賠償請求はできるのか

建設工事は大きな騒音や振動が発生しがちですが、大きすぎる騒音によって周辺住民がストレスや不安、不眠や持病の悪化などの影響を受けるケースがあります。

岸和田市を管轄する大阪地方裁判所でも、平成15年に認可された鉄道工事について、周辺住民に受忍限度を超える騒音被害を生じさせるものであるとする訴えが提起されています。

しかし、実際に工事の騒音や振動に苦情をいいたくても、誰に対して相談すればいいかよくわからない、また、騒音を止めたり騒音の被害について損害賠償を請求したりするにはどうすればよいか見当がつかない、といった方も少なくないでしょう。

そこで今回は、工事の騒音・振動問題を解決するために知っておきたい法律、騒音トラブルの相談先、騒音についての損害賠償の方法などについて、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。

1、工事の騒音・振動は法律で規制されている

工事の騒音や振動は法律で規制されています。代表的な法律として、騒音規制法と振動規制法を解説します。

  1. (1)騒音規制法とは

    騒音規制法は、建設工事などによって発生する騒音を規制することで、「生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的とする」法律です。

    かみ砕いていえば、工事などを原因とする過度な騒音は、生活環境を害するだけでなく健康に悪影響をおよぼす場合もあることから、規制することで国民の生活と健康を守る、ということです

    騒音規制法が規制する騒音の種類は、工事など建設作業における騒音、工場や事業場などの騒音、自動車の騒音、深夜の騒音などがあります。

  2. (2)特定建設作業とは

    騒音規制法は建設工事として行われる作業のうち、著しい騒音や振動を発生させる作業を「特定建設作業」と規定し、規制の対象としています。

    どの作業が特定建設作業にあたるかは、騒音規制法施行令に規定されています。特定建設作業に該当する例としては、くい打機、削岩機、空気圧縮機、トラクターショベル、ブルドーザーなどを使用する作業です(それぞれ該当する条件あり)。

    なお、特定建設作業に該当する工事を行う場合、その工事を行う自治体の首長(市町村長)に対して届け出をする必要があります。

    特定建設作業に該当する工事は騒音規制法による規制対象になりますが、どのような騒音や地域が規制対象になるかは厳密には都道府県や市町村によって異なります。

    また、それぞれの自治体の規制には環境大臣が定める土台としての規制基準があり、「特定建設作業に伴つて発生する騒音の規制に関する基準」といいます。

  3. (3)振動規制法とは

    振動規制法は、建設工事などで発生する振動などについて必要な規制を行うことで、生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的とする法律です。

    振動規制法は著しい振動を発生する作業のうち、政令で定めるものを「特定建設作業」と定義し、騒音と同様に規制の対象としています。ただし、振動規制法における特定建設作業は、騒音規制法における特定建設作業よりも該当する範囲が小さくなっています。

    振動規制法における特定建設作業は、くい打機類を使用する作業、鋼球を使用して工作物などを破壊する作業、舗装版破砕機を使用する作業、ブレーカーを使用する作業です(それぞれ該当する条件あり)。

    どのような振動や地域が規制の対象になるかは都道府県や市町村によって異なりますが、規制の対象になる振動の上限は、騒音規制法よりも一般に厳しい基準になっています

2、騒音の基準について

一般に騒音といえる音の大きさはどの程度かについて、騒音を表す単位の概要とともに解説します。

  1. (1)騒音を表す単位

    工事などで生じる騒音や振動は、「デシベル(dB)」という単位で表されます。

    デシベルは音の強さを表す単位で、世界初の実用電話を発明したとされていたグラハム・ベルにちなんだ単位であるベルに、10分の1を意味するデシが付加されたものです。

    デシベルの数字が大きいほど音も強くなります。デシベルによる一般的な音の強さの目安は、以下の通りです。

    • 20〜30デシベル:ささやき声や寝息など、ほとんど聞こえない程度
    • 40〜50デシベル:静かな住宅地の昼、市内の深夜、クーラーや換気扇の音など、会話に支障のない程度
    • 60〜70デシベル:乗用車、騒々しい街頭や事務所、セミの鳴き声など、うるさい程度
    • 80〜90デシベル:近くの犬の鳴き声、電車や地下鉄の車内、工場やブルドーザーなど、うるさくて我慢できない程度
    • 100〜120デシベル:電車が通るときのガード下、自動車のクラクション、飛行機のエンジンなど、聴覚機能に異常をきたす程度
  2. (2)騒音の目安

    工事によって生じる音について、何デシベルから騒音に該当するかは一律の基準はなく、騒音を規制する法律や各自治体の条例などによって異なりますが、一般に騒音の目安となるのは85デシベル程度です(特定建設作業の場合)。

    ただし、あくまで目安であり、どの程度のデシベルが騒音といえるかは、工事が行われている地域や適用される法律・条例などによるため、85デシベル以下であっても騒音に該当する場合もあるので注意が必要です。

    また、一般に、騒音はデシベルの大きさだけでなく、作業禁止の時間帯、最大作業時間、最大連続作業日数、作業を行わない日などの各項目によっても規制されます。

    環境省が定める「特定建設作業に伴つて発生する騒音の規制に関する基準」では、一般的な住宅地を含む「1号区域」における特定建設作業について、以下のような基準が設けられています。

    • 騒音の基準値:85デシベル
    • 作業禁止の時間帯:午後7時から午前7時まで
    • 最大作業時間:10時間を超えないこと
    • 最大連続作業日数:連続6日を超えないこと
    • 作業を行わない日:日曜日その他休日


    たとえば、上記の基準が適用される地域において、90デシベルの特定建設作業を午後9時にした場合、騒音の基準値を超えていること、作業禁止の時間帯に作業したことの2点が規制の対象になります。

3、工事の騒音はどこに相談すべきか

工事の騒音に苦しんでいる場合に、どこに相談すべきか、順を追って解説します。

  1. (1)まずは施主に相談する

    工事の騒音に苦しんでいる場合、まずは工事の発注元である施主(せしゅ)に相談します。

    工事によって生じる騒音を抑制するには、施行方法の変更や振動対策などをするために、追加の費用が発生する場合があります。そのため、工事を行っている業者と直接話すより、施主に最初に話を持っていくことで交渉が進みやすくなるでしょう。

    なお、工事の騒音について施主に相談する場合、どの程度の騒音が生じているかを客観的に証明するために、あらかじめ音を測定しておくことが重要です

    音の大きさを測る方法としては、騒音計を用意するのがオーソドックスですが、音量を測定できるスマートフォン用のアプリもあります。

  2. (2)改善されなければ役所に相談する

    施主に相談しても騒音が改善されない場合、工事が行われている場所を管轄する市区町村の“公害苦情相談窓口”に相談する方法があります。公害苦情相談窓口は、一般に各都道府県・市区町村の役所に設けられています。

    相談する前に騒音計などで音の大きさを測定しておくべきなのは、施主に相談する場合と同様です。

    役所としては法律に違反しているなどの客観的な証拠がなければ積極的に動きにくいため、音の測定は特に重要です。

  3. (3)それでも問題があれば弁護士に相談する

    施主や相談窓口に相談しても騒音トラブルが解決しない場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士は騒音や振動がどのような法律や条例に違反するかを正確に判断し、騒音を防止するための適切な処置を検討することができます。

    また、弁護士が交渉することで施主や業者が騒音を抑制するための措置をとり、問題が解決へと円滑に進む場合もあります。

    交渉で解決できない場合は裁判などの公的手続を検討することになりますが、弁護士に相談すれば、状況にあわせてどのような法的手続が適切か、裁判で勝てる見込みがあるか、どのような主張や立証が必要になるかなどを弁護士が適切にアドバイスします

4、騒音に対し損害賠償請求はできるか

工事の騒音について、損害賠償を請求できるかを解説します。

  1. (1)騒音は不法行為で請求

    工事の騒音を理由に慰謝料などの損害賠償を請求する場合、民法709条の不法行為として構成するのが一般的です。

    裁判において工事の騒音に対する損害賠償請求が認められるかどうかは、受忍限度論という理論にあてはまるかが重要になります。受忍限度論は騒音や振動の問題以外にも、日照やゴミ問題など近隣同士の紛争に用いられることが多い理論です。

  2. (2)受忍限度論とは

    受忍限度論とは、社会共同生活を営む上で、通常の一般人ならば当然に受忍すべき限度を超えた侵害を被った場合に、その侵害行為は違法性を帯びて不法行為に該当するという理論です。

    受忍限度論を騒音にあてはめると、工事による騒音の侵害が通常の一般人が受忍すべき程度を超える場合には、騒音について不法行為が成立して損害賠償の請求の対象になるということです。

    ただし、どのような場合に受忍限度を超えるかについて明確な基準はありませんそのため、工事の態様、被害の程度、地域の環境、被害防止措置などのさまざまな事情を総合的に考慮して、被害が受忍限度を超えているか、裁判所の判断に委ねることになります

    そのため、損害賠償請求を認めてもらうには過去の裁判例に基づいた準備を行うことが重要です。損害賠償の請求を検討する場合、一般民事や騒音トラブルの解決実績がある弁護士に依頼することをおすすめします。

5、まとめ

工事の騒音は生活環境を乱すだけでなく、場合によっては健康に影響をおよぼすこともあるため、騒音規制法や振動規制法などの法律や自治体の条例などで規制されています。

騒音について損害賠償請求をする場合、騒音による侵害の程度が一般的に受忍すべき限度を超えているか、という受忍限度論が重要になります。

工事の騒音についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスにご相談ください。騒音問題について解決実績がある弁護士が、事案の解決に向けて効率的にサポートいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています