相続の手順や必要な書類を分かりやすく弁護士が解説
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被相続人の死亡直後はその事実を向き合うだけで精いっぱいな状況にもかかわらず、死亡についての手続きや葬儀、そして相続と行うべきことがたくさんあります。中には期限が決められているものもあり特に税金の関わるものは放置すると追徴税の危険があります。
今回は、被相続人が亡くなってから行うべきことの手順や必要な書類について、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、相続の手順と必要な書類
まずは一般的な相続の手順を紹介します。相続は相続人に認められた重要な権利であるため、相続には期限がなく相続権を失うまでの時効も設定されていません。したがって相続の手続きがうまく進まないときもじっくり考えることが可能です。
ただ、相続が終わらないと原則として財産を自由に使えないため(一定額の預貯金については例外あり)、非常に不便であることもご理解ください。
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(1)財産を把握する
相続は被相続人の財産や債務を引き継ぐ手続きです。相続をするためにはまず財産がどこにどのくらいあるのか把握しなくては始まりません。よって遺言が存在しない場合、最初に行うことは財産目録の作成です。
基本的には被相続人が持っている財産で、かつ資産価値のつくものが遺産分割や相続税計算の対象となります。日用品や使い古した衣類まで厳密に管理する必要がない一方で、資産価値の不明なものは鑑定が必要になることがあります。少なくとも相続税を払う場合は全ての財産の評価額を計算するつもりで臨みましょう。
財産を把握するために必要な書類は次のようなものが考えられます。- 預金通帳
- 不動産の権利書
- 動産の証明書
- 骨董品などの鑑定書
- 証券会社からの通知
他にも財産の存在を疑わせる書類があればくまなくチェックしてください。無形でも特許や著作権、ゴルフ会員権など相続財産にカウントされる意外なものがあります。
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(2)法定相続人を把握する
相続で大切なのは「誰に」「何を」承継するかです。財産の把握ができたら法定相続人の把握を行います。法定相続人は次のように決められています。
- 配偶者はいかなる場合も相続人となる
- 子どもがいる場合は子どもが相続人となる
- 子どもがいない場合は被相続人の親や祖父母(直系尊属)が相続人となる
- 被相続人の直系尊属に当たる方がいなければ兄弟姉妹が相続人となる
まず、配偶者については現在結婚している方が相続人となります。
次に、隠し子がいる可能性もあるので、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を取り寄せます。子どものうち亡くなっている方がいる場合は孫が相続人となるため、その存在をたどるために亡くなっている方の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せます。
直系尊属や兄弟姉妹が相続人である場合も、その根拠となる戸籍謄本を全て取り寄せてください。
転籍している場合は複数の地方自治体に取り寄せ依頼をすることになります。 -
(3)遺産分割協議書を作成する
遺産と相続人の把握ができたら、遺産分割協議を行います。遺産分割協議は相続人全員の合意が必要となるため、疎遠な相続人とも連絡を取り合ってください。遺産相続をする気がない方には相続放棄をしてもらうと手続きがスムーズに進みます。
遺産分割協議への合意は一つの契約です。相続人に認知症の方がいる場合は成年後見制度を使うことになるかもしれません。
民法には法定相続分が決められています。しかし、遺産分割協議の結果が優先されるので円満に解決できる限り気にしなくて大丈夫です。逆に遺産分割協議がなかなかまとまらないときは公平を期して法定相続分を目安とすることが無難です。裁判に持ち込まれた場合も法定相続分を基準に実際の相続分が算定されます。
遺産分割に必要な書類は遺産分割協議書です。遺産分割協議書はパソコン作成可能です。数ページに及ぶ場合は契印を押しましょう。相続人が一人であれば遺産分割協議書は不要です。 -
(4)名義変更をする
名義を登録していないものは、その場で分ければ終了です。土地や建物、銀行預金のように名義が登録されているものについては名義変更が必要となります。
正しい承継者が財産を得られるよう、名義変更の際には遺産分割協議書が必要となります。 -
(5)遺言がある場合の手順
被相続人が遺言を作成していた場合は、遺産分割協議をしても遺言の内容が優先されます。相続が始まったら何よりも先に遺言を探しましょう。自宅に保管している場合はその原本が、公証役場に保管している場合はその写しが、貸金庫などに保管している場合もそれを示す書類があるはずです。
目立った手がかりが見つからないときは一度公証役場に行き公正証書遺言を探しましょう。2020年7月10日より自筆証書遺言を法務局に預けることができるようになりました。今後、法務局にも遺言の確認へ行く必要が出てくると思われます。
相続に時効がないように、遺言にも時効がありません。心して探しましょう。
自宅で遺言が見つかったら家庭裁判所で検認を受けます。法務局や公証役場に保管してある遺言については検認が不要となります。
そして遺言の通りに遺言執行者を定めて遺言の執行を進めます。遺言執行者が決まっていなければ家庭裁判所に申し立てて遺言執行者を選任してもらいます。遺産分割協議は行いません。
名義変更については遺産分割協議書の代わりに遺言書があればそれを根拠に行えます。
遺言の場合は法定相続人以外にも財産を承継させることができるので家族以外の方とのやりとりが必要かもしれません。
2、相続に関して必要な手続きの期限について
相続には時効も期限もありません。遺言にも時効がありません。遺産分割協議が終わった後に新たな相続人が明らかになったり遺言が見つかったりした場合は、極端な話ですが数年越しでも相続のやり直しが必要となります。ただ、実務上は難しいので金銭による補償を行うことが多いです。
ところが、被相続人が亡くなると「遺産分割の進行度合いと関係なく」さまざまな手続きが必要となります。これらの手続きは相続の内容が決まっていなくても進める必要があることにご注意ください。
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(1)7日以内
被相続人の死亡を知った日から7日以内を目安に死亡届を提出します。死亡届の提出については葬儀屋がある程度協力してくれます。死亡届の提出期限を守れない場合は地方自治体に連絡すれば大丈夫です。
死亡診断書や死亡検案書は被相続人が亡くなったときに受け取っているものをそのまま提出します。
死後7日以内に火葬許可申請書の提出も必要です。こちらも被相続人の本籍地たる地方自治体に提出します。 -
(2)14日以内
被相続人が亡くなって14日以内に行う手続きは、年金受給停止手続き、世帯主変更、健康保険の資格喪失手続き、介護保険の資格喪失手続きです。これらは被相続人の住所地たる地方自治体に申請します。
年金は亡くなったら受給できないので受給停止が必要です。この手続きの際に未支給だった年金をもらうための申請も行います。必要な書類は死亡診断書と年金証書です。
世帯員が二人以上でかつ世帯主が明確でない場合は世帯主変更の手続きを行います。
健康保険についての資格も失うので資格喪失の手続きを行ってください。健康保険証や戸籍謄本、その他身分を証明できる書類が必要となります。介護保険についても同様です。
可能であれば死亡届の提出と一緒に行いたいですね。また期限はないものの公共料金についての解約もしておく必要があります。 -
(3)4ヶ月以内
相続の開始を知ってから3ヶ月は熟慮期間となっています。熟慮期間とは遺産相続を単純承認するか、限定承認するか、相続放棄をするか決めるための期間です。限定承認は財産と負債を差し引いてプラスになった場合のみ承認する手続きですが、相続人全ての同意が必要です。相続放棄は自身で手続きが可能なため、負債を回避しやすいです。
相続放棄をするためには自分が相続人であることを示さなくてはいけません。その根拠はやはり戸籍謄本です。
相続放棄や限定承認を決めかねる場合は、期限伸長の申し立てを家庭裁判所に対して行ってください。
相続放棄や限定承認ができないとたとえ数億の債務でも相続することになります。 -
(4)4ヶ月以内
相続開始から4ヶ月以内に行うべきことは準確定申告です。確定申告は本来1年分の所得に基づいて行うものですが、被相続人が亡くなった場合は例外的に年の途中でも申告を行います。準確定申告で支払う所得税は相続財産の範囲で支払います。
確定申告書は通常のものと同じで、それとは別に死亡したものの所得税の確定申告書付票の添付が必要です。
準確定申告が遅れると追徴税の可能性があり、放置すると刑罰の対象となる可能性があります。たかが書類と軽視しないよう注意してください。 -
(5)10ヶ月以内
相続開始から10ヶ月以内には相続税の申告が必要です。相続税は遺産総額から計算し、それを実際の相続分に基づいて按分した金額を各相続人および受遺者が納めます。しかし、全てのケースが10ヶ月以内に遺産分割協議を終えられるとは限りません。
ところが、相続税の申告は原則として延長が認められていません。
10ヶ月以内に遺産分割協議ができないときは法定相続分に沿った遺産分割をしたものとして相続税を納め、その後実際の遺産分割に応じた追納および還付を受けます。 -
(6)1年以内
遺言の発覚や遺産分割から1年以内に行うべきは遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)です。遺留分とは実際の相続分と関係なく相続人に認められた財産の割合で、たとえば遺言で相続人以外の方に全ての財産を与えられようとしているときに遺留分侵害額請求権を用いれば最低限の財産を守れます。
遺留分侵害額請求権行使の期限は、相続と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内、あるいは相続開始から10年以内です。 -
(7)2年以内
死亡した日の翌日から2年以内なら埋葬料や高額医療費の請求が可能です(ただし、後述の埋葬費については埋葬を行った日の翌日から2年以内)。こちらは期限が長いからこそ忘れずに地方自治体に確認してください。埋葬料が支払われるのは同一生計の家族の方です。生計維持関係のない方が葬儀を行ったときは「埋葬費」の支給となり、「埋葬料」の範囲内で葬儀費用の実費支給になります。
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(8)3年以内
被相続人の死亡した日の翌日から3年が生命保険の死亡保険金受け取りの期限です。死亡診断書のほか身分を確認できる書類と保険証券などが必要です。
3、まとめ
相続そのものに時効や期限はないものの、被相続人の死亡に基づいて行うべき手続きには期限が設けられています。忙しい状況の中でも効率よくこなしていくことが大事です。
書類作成や法律の把握、難しい計算、戸籍の取り寄せなど独力で難しいことがありましたらベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスまでご相談ください。経験豊富な弁護士が必要に応じてサポートいたします。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
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