認知症の方が相続人にいるとき話し合いはどうする? 成年後見人とは
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岸和田市にお住まいの方が審判や裁判を行う際に管轄となる大阪家庭裁判所内では、成年後見人の需要は高まってきているようです。実際に平成29年「家事審判・調停事件の事件別新受件数(家庭裁判所別)」によると、「後見人開始の審判及びその取消し」の項目では、全国的にも大阪家庭裁判所の件数が横浜家庭裁判所を抜き、東京家庭裁判所の次に多くなっています。
親族が死亡して遺産相続をしなければいけないのに、その相続人の中に認知症の方がいるとき、多くが成年後見人を立てることになるでしょう。しかし、成年後見人について詳しく知っている方は少ないものです。そこで本コラムでは、認知症の相続人がいる場合の成年後見制度について、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、成年後見人制度とは?
相続人の中に認知症の方がいるとき、成年後見人を立てるという方法があります。成年後見人制度は認知症の他にも精神障害、知的障害などが理由で判断力が欠けている方のために、年金や通帳、不動産など、ご自身の財産の把握や管理を代理で行う制度です。
この制度は判断能力が不自由分な方を保護するために生まれました。財産の管理だけではなく、介護サービスを締結などの契約代理も可能です。また遺産相続のときには、遺産分割協議への代理の参加も認められています。相続人に認知症の方がいれば、ぜひ活用したい制度というわけです。
成年後見人については、民法第859条において下記のとおり定められています。
- 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
- 第824条ただし書の規定は、前項の場合について準用する。
なお、第824条では財産の管理及び代表について定めた規定です。成年後見人に関係する部分は、同条のただし書きである「ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。」が該当します。
「成年後見人制度」には、「法定後見人」と「認定後見人」があります。法定後見人は裁判所が決定するもので、認定後見人は本人が認定するものです。認定後見人の場合は、まだ本人に判断能力があると認められたときにだけ認定することができます。
判断能力に欠ける方のための後見人に至るまではないものの、助けが欲しい方もいらっしゃいます。その場合も、法定後見人制度では段階的に、判断力が著しく欠ける方のための保佐、判断能力が不十分な方のための補助というように3段階のステップが用意されています。
2、認知症の方に成年後見人をつけずに遺産分割協議をすることは可能か?
認知症の方を含む相続の協議を行う際は成年後見人をつけるという手があることはわかったものの、やり方もわからないし、そのまま遺産分割協議をすることは可能ではないかと思うかもしれません。しかし、判断能力のない認知症の方が相続人にいる場合、よくわからないままに遺産分割を進めることはできません。
では、成年後見人をつけずに遺産分割協議をするためには、どうすればよいのでしょうか。
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(1)法定相続通りに相続する
民法第900条には法定相続に関する取り決めの条文があります。遺言がない場合でも、この法定相続に従って遺産分割をするのであれば、認知症の方が相続人にいる場合も、わざわざ成年後見人を立てずに進めることが可能です。
しかし、法定相続に従った分割方法では、すべての相続人が納得しないこともあります。そのようなときは、認知症の方の代理として成年後見人制度を利用したほうがよいでしょう。
特定の財産だけを相続したいという要望はどこの相続会議でも出てくるトラブルのひとつです。大丈夫だと思って進めていても、いつ話がひっくり返るか、誰にもわかりません。成年後見人をつけずに法定相続制度に従い相続を進める場合であっても、トラブル回避のため、最初から確認を重々とりながら手続きを進めていくことをおすすめします。 -
(2)認知症の方に成年後見人をつけずに遺言書で相続する
成年後見人をつけなくても、亡くなられた方が法的に有効な遺言書を残していれば、そちらを法定相続よりも優先して遺産分割が行われるでしょう。その際も認知症の方に成年後見人を立てるまでもなく、遺産分割されます。
ただし、遺留分などの申し立てがあった場合は、改めて遺産分割協議を行う必要が発生します。その場合は、成年後見人制度を活用することになるでしょう。
3、成年後見人になれる人とは?
成年後見人制度を利用する際、どのように成年後見人となってくれる人を探せばよいのでしょうか。
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(1)成年後見人になれない人とは?
成年後見人になれない人については、民法で定められています。
第847条(後見人の欠格事由)
次に掲げる者は、後見人となることができない。- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
- 破産者
- 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
- 行方の知れない者
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(2)成年後見人の選任方法とは?
成年後見人の選任方法について民法第843条で定められています。
まず、後見人自体は前項で挙げた「後見人の欠格事由」に該当しない方であれば誰でもなることができます。しかし、後見開始の審判を行われるときは、家庭裁判所にて選任されることになることが民法第843条で定められているのです。
ただし、すでに成年後見人がつけいている方と該当者の成年後見人が相続人になった場合、後見人が被後見人の不利益となるような選択をしてしまう可能性があります。これを「利益相反行為」と呼ばれています。そのような事態を防ぐため、民法では改めて特別代理人を選出することになります。選出の申し立てが可能なのは利害関係人です。
ただし、後見監督人が選出されている場合は、この限りではありません。
4、成年後見人になる手続きの仕方とは?
成年後見人をつけるための手続きについて解説します。
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(1)家庭裁判所に成年後見人の申し立て
まずは成年後見人を立てる申し立てを家庭裁判所で行います。申し立てができる者は、被後見人となる方の配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐監督人、補助監督人、検察官などです。
多くの場合は兄弟姉妹、いとこ、おじおば、配偶者などの近しい親族が務めることになるようです。 -
(2)家庭裁判所が成年後見人を審理し審判して選任
家庭裁判所に申し立てをしたからといって、そのまま決定するわけではありません。申し立てがあった後、家庭裁判所では提示された人物が成年後見人として適格かどうかを、資料をみたり面接をしたりして審理します。財産状況、利害関係の有無などが考慮されるでしょう。
結果として適任ではないとされ、第三者を選任されることもあります。第三者とは司法書士や弁護士など、法律に関する知見が深い者が一般的です。選任されたら法務局へ登記届け出を出せば、正式に決定します。 -
(3)成年後見人への報酬
成年後見人には報酬が基本的に発生します。親族が選任された場合に報酬をもらわない場合もありますが、もちろん親族であっても報酬を要求していいものです。
その際、財源は被後見人の財産となります。専門家による第三者が選任された際も、もちろん報酬が発生します。その場合、もし報酬が負担となるならば、自治体の助成金制度「成年後見人制度支援事業」がありますので活用を考えてみましょう。
5、相続において弁護士を成年後見人に選任するメリット
成年後見人に家庭裁判所から弁護士を選任される場合もありますが、最初から弁護士を提案することができます。
認知症の相続人がいるとなれば、さまざまなトラブルが予想されるでしょう。遺産分割協議においては、遺留分減殺請求や不動産の分割の仕方など、専門的な交渉や決定、調停もしくは裁判も予想されます。
そのような場合も、最初から弁護士を後見人として選任していることにより、そのときどきに応じて経験からのアドバイスが得られるだけでなく、被後見人を守ることができるでしょう。さらには、成立したはずの遺産分割協議が後日になって無効にならないよう、適切な手続きを進めることも可能です。
認知症の相続人がいる場合には、まず弁護士に相談してみることをおすすめします。もし成年後見人が必要とならなくても、相続全般に関して法に則した適切な助言ができるでしょう。
6、まとめ
認知症の方を含めての遺産分割協議は大変なことが多いものです。相続問題に対応した経験が豊富な弁護士に相談することで、適切なアドバイスを得られることでしょう。さらに、成年後見人として選任すれば、認知症となった被後見人の代理で署名捺印を行えるため、遺産分割協議時に発生する書類手続きもスムーズに進みます。
特に、相続に関する民法は平成30年に改正されたばかりであり、情報のアップデートが欠かせません。相続問題で頭を悩ませているときは、お気軽にベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスで相談してください。成年後見人を務めることももちろんですが、グループ企業には税理士などが在籍しています。相続にまつわるすべての相談へ、ワンストップで対応可能です。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
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