家督相続はいつまで有効? 長男が財産を独占しそうなときの対策方法

2020年04月13日
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家督相続はいつまで有効? 長男が財産を独占しそうなときの対策方法

「遺産は全て長男に譲る」。そういわれたら驚く兄弟や姉妹もいるでしょう。旧民法では、戸主の財産は長男に全て承継する家督相続が一般的でした。しかし現在では、必ずしも長男が家督相続をする必要はありません。

そこで今回は、家督相続制度はいつまで続いていたのか、現代の相続にどうなっているのかを、岸和田オフィスの弁護士が解説します。

1、家督相続制度とは

家制度の象徴とも言える家督相続制度は、その家の財産をすべて特定の人物に相続する制度です。そもそも家督相続は、「戸主」という地位の承継が目的です。つまり財産が人ではなく家に帰属するという考え方なのです。

  1. (1)家督相続は、なぜ長男への相続が前提なのか

    昔は長男が財産を継ぐのが一般的でした。これは文化的にそうだったというだけでなく、法律で決められていました。明治31年7月16日に定められた旧民法では、家督相続における明確な相続順位が記述されていました。

    • 婚姻関係があるものの子は、婚外子より優先される。
    • 男性は女性より優先される。
    • 正妻の子は、妾の子より優先される。
    • 兄弟がいる場合は、年長者が優先される。


    これらをまとめると、家督相続の順位がもっとも高いのは「正妻から生まれた長男」ということになります。また、家督相続は放棄することができなかったため、長男が相続することは、民法上はもちろん社会的にも一般的なことでした。

    なお、戸主は相続人を指定できますが、それはあくまで法的に相続権を持つ方がいない場合です。家督相続は、死亡のほか、隠居や国籍喪失もその理由とされていました。

  2. (2)家督相続はいつまで続いていた?

    家督相続制度は、明治31年から、戦後である昭和23年に日本国憲法が施行されるまで続いていました。
    この世代の方が相続にかかわる場合、いまだに家督相続の考えが根強く残っているかもしれません。そのため、相続に関して家族間でのトラブルが生じるケースも考えられます。

2、家督相続がなくなった現在の相続ルール

家督相続は民法改正とともになくなりました。そのため、現在は家督相続を主張することはできません。しかし前述のとおり、相続においてまだ家督相続制度を主張されることがあるかもしれません。相続人としての権利を守るためにも、現在の相続ルールを知っておきましょう。

  1. (1)子の相続は兄弟間で平等になった

    現在の民法にも相続の優先順位はあります。しかし、旧民法に比べて大幅に平等なものとなりました。

    • 配偶者は無条件に相続できる
    • 子は平等に遺産を相続する。非嫡出子も平等
    • 子がいない場合は直系尊属が相続人となる
    • 子も直系尊属もいない場合は兄弟姉妹が相続する


    したがって、現在では長男以外の方も遺産を受け取ることが可能です。

  2. (2)遺産分割協議が自由に行える

    現行民法では、法定相続分にとらわれない自由な相続が可能となっています。遺産分割協議をし、相続人全員が合意すれば、特定の人物にだけ遺産が集中するということはありません。

    また、遺産分割の代わりに被相続人が遺言で相続の内容を決めることも可能です。遺言のメリットは、相続争いの可能性をなくし、相続人以外への遺産承継の選択肢を作れることです。
    遺言では、子の認知や祭祀承継も決めることが可能です。

    しかし、遺言で全ての財産をたった一人に承継されることは、他の相続人の権利を侵害することにあたります。そこで現行民法では「遺留分」という概念を認めています。これは法定相続分を、遺産分割協議や遺言によって失われない取り分として定めたものです。

    この遺留分に応じた相続財産を請求する権利を、遺留分減殺請求権と呼びます。2018年の民法改正により、遺留分は金銭での請求が原則となりました。

  3. (3)相続の内容に不満があれば裁判を起こせる

    家督相続制度では、長男への相続や、相続放棄ができないなどの不満があったとしても、基本的には受け入れるしかありませんでした。しかし現在では、相続の内容に合意できないときは調停や訴訟を用いて裁判所に公正な結論を下してもらうことができます。不利な遺産分割協議書に納得せざるを得ない、ということも避けられるのです。

3、相続登記で家督相続が使われるケース

すでに法としては効力を持たない家督相続ですが、不動産登記においては、現在も家督相続を原因とした所有権移転登記がされています。以下に家督相続による登記を行う場合をご紹介します。

●昭和22年5月2日以前に家督相続があった場合
家督相続については昭和22年5月2日以前まで認められており、昭和22年12月31日までは被相続人の死亡により新法に基づく相続が行われることになっていました。もちろん、応急措置が適用された場合は登記原因が通常の相続となります。

ここで注意が必要なのは、家督相続の条件が被相続人の死亡と限らない点です。もし、昭和22年8月に死亡した方が日本国憲法施行以前に隠居や国籍喪失などの原因で家督相続していた場合は、家督相続が認められることとなります。

●今現在、家督相続の登記をしていない場合
相続登記は面倒であったり、法律を知らなかったりという理由でおざなりにされていました。相続登記について確たる罰則がないことも原因だったのかもしれません。そのせいで、70年以上も前の家督相続について登記がされていない物件が現在も存在します。

家督相続で不動産を承継した以上は、現在であっても家督相続を原因とした登記が必要となります。

被相続人が家督相続を受けていて、相続登記を忘れている場合はすぐに手続きを行いましょう。家督相続の事実は戸籍に書かれています。すでに家督相続を受けた戸主が亡くなっている場合は、その相続人全員の申し立てによる家督相続の登記が可能です。その後の相続登記については、遺産分割協議や遺言に基づいて通常通り行います。

4、家督相続制度が終わっていても、長男は遺産を独占できる?

繰り返しになりますが、家督相続は現在の相続には関係ありません。そのため、親が家督相続をする気だったとしても、長男に財産をすべて奪われる心配はないでしょう。しかし、もし長男が家督相続を主張して遺産を独占しようとしたら、どのように対処すればいいでしょうか。押さえておくべきポイントをご紹介します。

  1. (1)遺留分減殺請求権があるため不可能

    遺言で長男へ全ての財産を相続するといった場合でも、長男以外の相続人には遺留分減殺請求権が発生します。遺留分は直系尊属のみが法定相続人となる場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1です。その内訳は法定相続分と同じです。

    したがって、長男に全ての財産が遺贈された場合は
    相続財産の半分×(1-長男の法定相続分)
    が確保できる金額となります。遺留分は金銭で請求可能です。

  2. (2)遺産分割協議で強硬な態度をとるなら裁判所へ

    遺言がない場合は遺留分減殺請求権を使わなくても、裁判で公平な遺産分割が可能です。長男が法的な面について納得してくれれば調停での解決も可能ですが、強硬に振る舞うときは訴訟で決着をつけるほかありません。

    ここで早期解決をはかると、時間や費用を抑えられる可能性が高くなります。早めに弁護士に相談することをおすすめします。

  3. (3)代償分割を請求する手段もある

    財産のほとんどが不動産や株式である場合、それを共有することが相続人全ての不利益となりかねません。その場合、財産は長男に与え、自らの相続分に値する金額を長男から払ってもらう代償分割が可能です。

    代償分割は相続人の権利を守りますが、財産を受けた方としては現金の流出が大きいというデメリットがあります。特に事業承継の関係で株式を得た場合は、代償分割のせいでキャッシュアウトを起こしかねませんし、そもそも長男自身がそこまでの金銭的利益を得られていないことも考えられます。
    「長男が財産を独占する」にもいろいろな事情があるため、個別のケースに応じた対処が求められるのです。

5、まとめ

現在でも、家督相続を望んでいる方がいらっしゃるかもしれません。また、相続争いは感情や知識に大きく左右されやすい問題でもあります。親族間でのトラブルを避けるためにも、家督相続に関する問題にお悩みの際は、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスまでお早めにご相談ください。経験豊富な弁護士が、円満な相続をお手伝いいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています