持続化給付金の不正受給で逮捕? ペナルティーや解決方法を弁護士が解説

2020年12月14日
  • その他
  • 持続化給付金
  • 不正受給
持続化給付金の不正受給で逮捕? ペナルティーや解決方法を弁護士が解説

新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの事業主が苦境にあえいでいます。特に大きな影響を受けている事業主に対して、事業継続の下支えと再起の糧とするために創設された制度が、経済産業省の「持続化給付金」です。岸和田市のホームページでも、事業者向け新型コロナウイルス関連制度として持続化給付金の制度や申請方法が紹介され、多くの事業主がこの制度を利用して急場をしのいでいます。

その一方で、持続化給付金を不正に受給した人が逮捕された事件が次々と報道されており「返還したい」と要望する人も絶えません。担当官庁は「不正を逃さない」と公言しており、不正受給がいずれ徹底的に糾弾されるのは確実です。

このコラムでは、持続化給付金の不正受給がどのような罪に問われるのか、不正受給をした場合はどのように対応すればよいのかを、岸和田オフィスの弁護士が解説します。

1、持続化給付金の不正受給問題

新型コロナウイルスの感染拡大による不況を強く実感している事業主の方は多いでしょう。一定の条件を満たした事業主は「持続化給付金」の給付対象となります。

まずは、持続化給付金の制度や、最近になって注目されている不正受給問題についてみていきましょう。

  1. (1)「持続化給付金」とは

    新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、インバウンドの急減・営業自粛などによって大きな影響を受けている中小法人・個人事業主への救済処置として国から給付されるのが「持続化給付金」です。

    給付金の額は、令和元(平成31)年中の事業収入を基準に、令和2年中の収入額との差から決定します。売り上げ減少分×12か月分が給付され、給付額の上限は中小法人で200万円、個人事業主で100万円です。

  2. (2)不正受給の状況

    持続化給付金制度は、新型コロナウイルスの影響を受けた事業主を一刻も早く救済するための制度であり、申請方法や必要書類などの面で簡素に済むよう整備されています。

    それを逆手にとり、この措置を悪用した不正受給はあとを絶ちません。9月には指定暴力団の組員が経営する飲食店が100万円を不正受給したとして、大阪府警に逮捕されました。

    警察庁によると、令和2年10月中旬の段階で、持続化給付金の不正受給の疑いで検挙された人の数は47名となっています。会社員や大学生など、本来は給付対象とならない人に対してマージンをとりながら指南する悪質なグループも存在しており、報道を受けて返還希望や自首が殺到している状況です。

    さらに、11月には沖縄県の新聞社の元社員が警察に出頭し逮捕されました。新聞社の社員や知人も巻き込み、40人以上の人が不正受給に関わったとみられています。このように、不正受給は全国規模で広がりをみせており、背後に組織的な犯行を指摘するむきもあります。
    各種の相談窓口にも相談が相次いでおり、国民生活センターのホームページ上でも「持続化給付金の不正受給は犯罪です」とした経済産業省からのメッセージを掲載し、受給資格のない人はもうけ話として安易に応じてはいけない旨、注意喚起をしています。

2、不正受給の判断基準(不正とみなされる要件)

すでに持続化給付金を受給した方のなかには、自らの申請について「不正受給になってしまうのか?」と不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。

持続化給付金制度を規定している「持続化給付金給付規定」から、不正受給の判断基準を確認しておきましょう。

  1. (1)基本情報に虚偽の記入をすること

    持続化給付金の申請には、事業主の屋号・商号・雅号や所在地などの情報を示す必要があります。これは、すでに持続化給付金を受給したことがある事業主や受給対象外の事業主を確認するためです。

    対象外となるのは主に以下の組織です。

    • 資本金10億円以上の大企業
    • 暴力団など反社会的勢力に関連する事業
    • 性風俗関連特殊業
    • 接客業受託営業
    • 政治団体
    • 宗教上の組織もしくは団体


    不給付要件に該当する事実を隠すために虚偽の基本情報を記入して受給した場合は、不正受給とみなされます。

  2. (2)収入状況を偽ること

    持続化給付金は、新型コロナウイルスの影響によって、前年である令和元(平成31)年と比較して、大きく収入額が減少した場合に限って給付されます。

    具体的には、下記のように減少したケースが給付の対象となります。

    ●中小法人の場合
    1.  令和2年1月以降で、前年同月比の収入額が50%以上減少した月があること
    ●個人事業主・フリーランスの場合
    1.  事業所得で確定申告をしたケース
      ……中小法人と同じ
    2.  雑所得・給与所得で確定申告をしたケース
      1. ……令和元(平成31)年中の収入額の月平均と比較して、令和2年1月以降の任意の1か月において収入額が50%以上減少していること


    つまり、収入額が「50%以上減少した」と偽って申請して持続化給付金を受給する行為は、中小法人・個人事業主にかかわらず不正受給となります。実際に収入額が減少していても、新型コロナウイルスの影響ではない事情で収入が減少しているのであれば不正受給とみなされるでしょう。また、「事業を継続する意思があること」も要件となっているため、すでに廃業しているのに給付を受ける行為も不正受給となります。

3、不正受給に対するペナルティーと刑事責任

持続化給付金を不正受給した場合、厳しいペナルティーを受けるだけでなく、刑事責任に問われるおそれもあります。

  1. (1)全額返還と延滞金・加算金の支払い義務

    不正受給が確認された場合は、給付額の全額について返還を求められます。しかも、不正受給の日の翌日から全額返還の日まで、年3%の割合で算定した延滞金が発生したうえで、これらの合計額の20%に相当する加算金も支払わなくてはなりません。さらに、不正受給者については、原則として申請者の屋号・雅号・氏名などが公表されます。

    なお、持続化給付金は非免責債権のため、個人事業主やフリーランスの方が不正受給したあとで自己破産をしても、返還義務が残ります。また、法人で自己破産した場合であっても詐欺破産罪に問われる可能性があります(破産法265条)。不正受給の刑事責任については、以下より詳しく解説します。

  2. (2)詐欺罪などの刑事責任

    持続化給付金給付規定によると、不正受給については「不正の内容により申請者を告発する」と示されています。

    基本情報や収入状況を偽って持続化給付金を受給する行為は、刑法第246条の「詐欺罪」にあたります。事業の実態がない、実際には収入額が減っていない、実際に収入額が減少しているが給付額を増やすため過少に申告したといったケースは、詐欺罪に問われる可能性が高くなるでしょう。

    詐欺罪は10年以下の懲役が規定されている重大な犯罪です。罰金刑の規定がないため、有罪判決が下されれば確実に懲役刑が言い渡されてしまいます。

    また、申請に際して収入額を証明する確定申告書の写しなどを偽造した場合は、刑法第159条の「私文書偽造罪」および同法第161条の「偽造私文書行使罪」が成立します。法定刑は3か月以上5年以下の懲役です。

    これらは詐欺の手段として用いられるため「牽連犯(けんれんはん)」という扱いとなり、そのもっとも重い罪で処断されます。牽連犯とは、犯罪のための手段や結果が、他の犯罪にも該当することです(刑法54条1項後段)。

    つまり、詐欺罪が成立する以上は、法定刑がもっとも重く規定されている詐欺罪で処罰を受けることになりますが、複数の罪名に当てはまる場合は「悪質だ」と判断されやすくなるおそれがあるため、刑事告発を受ける可能性は非常に高いといえるでしょう。

    [参考] 詐欺罪で逮捕されたらどうなる? 前科がつかないようにするには?

4、「申請代行業者」などにそそのかされて受給した場合の対応

持続化給付金の不正受給問題については、申請代行業者などを名乗る指南役の存在も確認されています。アルバイト感覚で虚偽の申請をおこない、マージンとして数十万円を支払ったというケースも多いようです。申請代行業者など、指南役にそそのかされて不正受給をはたらいてしまった場合、どのような対応をとるべきなのでしょうか。

  1. (1)ペナルティー・刑罰は避けられない

    たとえ申請代行業者などにそそのかされてしまったのだとしても、責任を追及されるのは申請者個人です。全額返還と延滞金・加算金の支払いというペナルティーは回避されません。

    また、指南役が存在しているのだとしても、全国で末端の申請者まで逮捕されている状況をみれば、刑事責任を免れることは難しいかもしれません。不正受給に巻き込まれたと気付いた段階で、一日でも早く弁護士に相談することをおすすめします。

  2. (2)自己申告と捜査協力が重要

    経済産業省は「持続化給付金を誤って受給された方へ」と題して、返還にかかる案内を公開しています。アルバイトなどと称して申請代行業者などにそそのかされてしまい、制度を深く理解しないまま不正受給をはたらいてしまった人が多数確認されたことから、早期に自己申告し全額を返還すればペナルティー・刑事責任の追及はしないという方針です。

    正直に自己申告をしたうえで全額を返還し、さらに悪質な申請代行業者などの指南役の摘発に向けて警察の捜査に協力する姿勢を示すことが重要でしょう。

5、早期に弁護士への相談を

持続化給付金を不正受給してしまった方は、直ちに弁護士への相談をおすすめします。

経済産業省が「誤って受給された方へ」と広報しているとおり、不正受給をしていたとしても早い段階で自己申告すれば厳しい追及は回避できる可能性があります。

一方で、全国の逮捕事例をみると、申請代行業者のような指南役が介在している組織的な不正受給は厳正に取り締まりを受けている状況です。「いいもうけ話だ」などとそそのかされた、アルバイト感覚で不正受給をはたらいたといったケースでは、捜査機関が動き出す前に弁護士を伴って自首するのが賢明でしょう。

また、実際に給付対象や算出方法を間違っていたのであれば、故意が認められないため不正受給にはなりません。不正受給を疑われたとしても、弁護士に相談して具体的な証拠を示すことができれば穏便な解決が図れるでしょう。もし逮捕される事態に発展した場合でも、逃亡・証拠隠滅を図ることなく警察の捜査に協力することで厳しい刑罰を回避できる可能性があるので、弁護士に相談してアドバイスを受けることが大切です。

6、まとめ

持続化給付金は新型コロナウイルスの影響によって収入が減少した中小法人や個人事業主を援助するための制度です。一刻も早い救済を実現するために簡素な申請によって給付されていますが、制度を悪用した不正受給が絶えません。持続化給付金の不正受給は厳しいペナルティーが課せられるだけでなく詐欺罪などの刑事責任を追及されることになります。

つい魔が差して虚偽の申請をしてしまった、申請代行業者などにそそのかされて不正受給をはたらいてしまったなどのお悩みがあれば、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスへご相談ください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決を目指して全力でサポートします。

すでに持続化給付金を受給しており、間違いなどが発覚して不正受給を疑われるのではないかと不安を感じている方も、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスまでご一報ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています