恐喝と強盗の違いは何? 問われる罪、科せられる刑罰も違うのか
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令和4年、学生を脅して現金などを奪い取った容疑で、大阪府に住む男ら4人が恐喝の疑いで逮捕される事件がありました。異性トラブルを理由に、「どうやって落とし前をつけるのか?」などと脅して顔面を殴り、示談金の名目で現金などを脅し取った疑いがもたれています。
この事例は、トラブルを理由に因縁をつけて金銭などを脅し取る、恐喝罪として扱われたようですが、状況次第では、さらに刑罰が厳しい強盗罪として扱われる危険があるので注意が必要です。
本コラムでは「恐喝」と「強盗」を区別するポイントを解説しながら、刑事事件に発展してしまった場合の流れや厳しい処分を避けるための対策について、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、恐喝罪にあたるケースと刑罰
恐喝罪は刑法第249条に定められている犯罪です。同条1項は「人を恐喝して財物を交付させた者」を、同条2項は人を恐喝して「財産上不法の利益を得」た者を処罰の対象としています。
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(1)暴力や脅しで相手から財物を差し出させると恐喝罪
条文に示されている「人を恐喝」とは、暴行や脅迫を用いて相手を怖がらせる(畏怖させる)ことを指します。
暴行とは、殴る・蹴るといった暴力行為が典型的でしょう。痛い目に遭わされると、誰もが「これ以上は暴力を受けたくない」と感じ、相手のことを恐れるのが当然です。
脅迫とは、痛い目に遭う、知られたくないことを公表されるといった、危害を告げられることを指します。
そして、相手が恐れる事実(例えば、暴力をふるわれるとか、情報を公表されると現在の地位が脅かされる、など)を告げることを「害悪の告知」といいます。
これらの暴行・脅迫を受けた相手が、畏怖の感情を抱き、財物を差し出せば(交付すれば)、恐喝罪の完成です。
なお、財物を差し出させるのではなく、代金の支払いを免れたり、借金などの債務を免除させたりした場合も恐喝罪となります。
このようなケースでは刑法第249条2項が適用されるため、通常の恐喝罪と区別するために「二項恐喝」と呼ばれることがありますが、罪の重さは同条1項の恐喝と同じです。 -
(2)恐喝罪で科せられる刑罰
恐喝罪を犯した場合は、10年以下の懲役が科せられます。罰金の規定はないので、有罪判決を受けると必ず懲役が科せられるという意味では、厳しい刑罰が予定されている犯罪だといえるでしょう。
2、強盗罪にあたるケースと刑罰
強盗罪は刑法第236条に定められている犯罪です。同条1項は「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者」を、同条2項は同じ方法で「財産上不法の利益を得」た者を罰することが規定されています。
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(1)暴力や脅しで財物を強引に奪うと強盗罪
強盗罪において、財物を奪う方法は「強取」であり、強引に相手から奪う行為が処罰の対象となります。
銀行の窓口で包丁を突きつけて「命が惜しければ金を出せ」と脅す銀行強盗や、路上で他人を殴って財布などを奪う路上強盗、タクシーから降車する際にモデルガンを見せて脅し料金支払いを免れるタクシー強盗などの行為が典型的です。 -
(2)強盗罪で科せられる刑罰
強盗罪の法定刑は、5年以上の有期懲役です。有期懲役の上限は20年なので、最も軽い処分でも5年、最も重く処分されると20年にわたって刑務所に収監されてしまいます。
原則として執行猶予の対象外となるため、実刑判決の可能性は極めて高いと言えます。
3、恐喝と強盗の違いを判断するポイント
恐喝罪と強盗罪は、いずれも「暴力や脅しで他人から金品などを奪う」という意味ではよく似ています。実際に、恐喝罪にとどまるのか、強盗罪が成立するのかという点が争われる事例も少なくありませんが、刑罰の重さが各段に異なるので、どちらが適用されるのかは重大な問題です。
恐喝と強盗の違いを判断する際は、財物を奪うための手段である「暴行・脅迫の程度」に注目することになります。
たとえば、単に言葉だけで「痛い目に遭いたくなければ金を出せ」と脅されるのと、包丁などの刃物を突きつけられて「刺される前に金を出せ」と脅すのとでは、脅し文句が似ていても危険度が段違いです。
恐喝罪における暴行・脅迫は「相手を怖がらせる程度」で足りますが、強盗罪では身体的・精神的に相手の自由を強く制圧する程度の暴行・脅迫が必要となります。
強盗罪における暴行・脅迫のことを、法律の考え方では「相手方の反抗を抑圧する程度」といい、暴行・脅迫の程度の強弱によっていずれかの犯罪が適用されるという構図です。
4、逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
恐喝罪・強盗罪は、いずれも他人から金品などを奪うという点で悪質に評価されやすい犯罪です。厳しい刑罰が予定されており、重責から逃れるために逃亡や証拠隠滅を図る危険も高いことから、警察に発覚すると逮捕される可能性が高いでしょう。
警察に逮捕されると、その後はどうなってしまうのでしょうか?
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(1)最長23日間の身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内の身柄拘束を受けたのち、検察官へと引き継がれてさらに24時間以内の身柄拘束を受けます。
合計72時間は逮捕による身柄拘束の期間であり、最大72時間を過ぎると逮捕による身体拘束を続けることができません。
しかし、ここで検察官が「勾留」を請求し、裁判官がこれを許可すると、初回で最大10日間、延長請求によってさらに最大10日間、身柄拘束が続きます。
つまり、逮捕と勾留をあわせると、被疑者としての身柄拘束は最大で23日間です。 -
(2)検察官が起訴すると刑事裁判が開かれる
勾留が満期を迎えるまでに検察官が起訴に踏み切ると、刑事裁判が開かれます。被疑者は起訴された時点で被告人となり、正しく刑事裁判を受けるためにほとんどの場合、さらに勾留されるので、保釈されない限り原則として自宅へは帰してもらえません。
刑事裁判の最終回では判決の言い渡しがおこなわれます。わが国の司法制度では、起訴前の検察庁によるスクリーニングが徹底されているので、起訴されれば有罪判決を避けられる可能性はほとんどないでしょう。
なお、18歳未満の少年、ならびに18~19歳の特定少年が事件を起こした場合は、原則として刑事裁判は開かれず、家庭裁判所に送致されて少年審判が開かれたのち、更生に向けて少年院送致や保護観察などのしかるべき処分を受けます。
恐喝・強盗は決して軽微な犯罪ではないので、事件前のような生活を送れなくなるかもしれません。 -
(3)刑罰を回避するには「示談」が重要
恐喝・強盗は逮捕の危険が高い犯罪です。逮捕されてしまうと、起訴までに最長23日間にわたる身柄拘束を受けるだけでなく、起訴されるとさらに刑事裁判が終わるまで原則釈放されません。
家庭・会社・学校などと隔離される生活が続けば、社会復帰も難しくなるでしょう。また、恐喝・強盗は厳しい刑罰が予定されているので、起訴はなんとしても避けたいところです。
刑罰を避けるためには、被害者への真摯(しんし)な謝罪と与えた損害の賠償を尽くす機会として、速やかに「示談」を進める必要があります。ただし、被害者は強い恐怖や怒りを覚えているので、加害者やその家族が示談交渉を申し入れても、相手にしてもらえないかもしれません。
円滑な示談交渉を進めるためには、公正な第三者として弁護士が代理人となり、交渉を進めるのが最善です。ただちに弁護士に相談して、示談交渉を依頼しましょう。
5、まとめ
恐喝罪と強盗罪は、共通点が多い犯罪です。ただし、手段の面においてその強度に違いがあり、相手の反抗を抑圧しない程度に怖がらせたうえで財産を差し出させれば恐喝罪に、相手の反抗を抑圧して財産を強引に奪えば強盗罪に問われます。
どちらが適用されたとしても、逮捕の危険性は高く、厳しい刑罰が予想されるのは同じです。しかし、恐喝罪と強盗罪では刑罰の重さが各段に異なるため、どちらが適用されるのかは非常に重要な問題になります。
逮捕・刑罰を防ぐためのサポートも必要なので、恐喝・強盗に問われる危険のある行為をはたらいてしまった場合はただちに弁護士に相談しましょう。
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