自転車でも「あおり運転」は処罰の対象! 道路交通法の「妨害運転罪」を解説

2022年04月14日
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自転車でも「あおり運転」は処罰の対象! 道路交通法の「妨害運転罪」を解説

令和2年6月、道路交通法の一部改正によって、あおり運転に対する罰則が創設され、全国ニュースでも検挙事例が報道されるようになりました。

大阪府警は独自に作成した啓発動画を公開するなど、あおり運転の撲滅に向けた広報活動を展開しています。しかし、交通量の多さや複雑な道路事情からトラブルに発展するケースも多く、今後はさらにあおり運転として検挙される事例が増加する可能性もあります。

たとえば、新たに処罰の対象となった「自転車によるあおり運転」です。悪質なあおり運転だと判断された場合は、自転車の運転者であっても処罰を受けます。このコラムでは「自転車によるあおり運転」を中心に、自転車の運転によって罪に問われてしまう可能性が高い行為について、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。

1、自転車も無関係ではない! 「妨害運転罪」の創設

令和2年6月の道路交通法の一部改正によって、新たに「妨害運転罪」が創設されました。
危険なあおり運転を取り締まる直接的な定めとして機能することに期待が集まる一方で、さらにこれまで厳しい処罰が避けられてきた自転車による危険運転も処罰の対象となっています。

  1. (1)妨害運転罪とは

    妨害運転罪とは、道路交通法の一部改正によって創設された新たな処罰規定です。

    これまで、危険なあおり運転を取り締まるためには、通行区分違反や追い越し方法の違反など、態様に応じた個別の規定で対応するしかありませんでした。

    これらのほとんどは、刑罰としては比較的に軽く、しかも軽微な違反として交通反則通告制度、いわゆる「切符処理」の対象となっており、厳しい処罰を科すことができないという事情がありました。

    そこで、あおり運転による悲惨な事故の抑止を目的として、事故道路交通法第117条の2の2に新設されるかたちで、あおり運転に該当する10類型が「妨害運転罪」として創設されました。

  2. (2)妨害運転罪(あおり運転)に科せられる刑罰

    ほかの車両の通行を妨害する目的で、交通の危険を生じさせるおそれのある方法によって、急ブレーキや急な割り込み、幅寄せ、蛇行運転、連続したパッシングやクラクションを鳴らす行為などをすれば、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

  3. (3)自転車が加害者となる事故の割合が増加している

    自転車は、道路交通法上では原動機をもたない「軽車両」に分類されます。運転走行中は「車両」に含まれて自動車と同じ扱いを受けつつも、運転していなければ「歩行者」として扱われる、ある意味では難しい存在でした。

    ところが、近年では「自転車は車両である」という認識が急激に高まっています。この背景には、自転車の運転者が加害者となる交通事故の割合が増加しているという状況があります。

    警察庁の調べによると、令和元年中に自転車が関連した交通事故の件数は8万473件でした。件数そのものは減少していますが、交通事故全体に占める割合としては21.1%となっており、前年比で1.2ポイントの増加となっています。

    自転車が加害者となった事故で数千万円単位の賠償が命じられた事例も多く、自転車運転における交通ルールの整備は急務とされていました

  4. (4)自転車も妨害運転罪が適用される

    今回の道路交通法の一部改正によって創設された「妨害運転罪」には、ほかの違反行為の条文でみられる「軽車両を除く」という一文が存在していません。

    つまり、軽車両に定義される自転車も、妨害運転罪による処罰対象です。

    自転車に対する法規制としては、平成27年6月から開始された「自転車運転者講習制度」の対象となっている14類型の危険行為がありました。

    妨害運転罪が創設されたことで、新たに「妨害運転」が加えられて15類型が危険行為とみなされ、3年以内に2回以上の違反を犯した運転者には都道府県公安委員会から講習の受講命令が下されます。

    自転車運転で妨害運転罪が適用されるのは次の7類型です。

    • 通行区分違反
    • 急ブレーキ禁止違反
    • 車間距離不保持
    • 進路変更禁止違反
    • 追い越し違反
    • 警音器使用制限違反
    • 安全運転義務違反


    危険なマナー違反とされていた路側帯の逆走や執拗にベルを鳴らす行為など、広く自転車による「あおり運転」が厳罰の対象となりました。

    本来、妨害運転罪は10類型の危険行為が処罰の対象ですが、そのうち減光等義務違反・高速道路における最低速度違反と駐停車違反の3類型が自転車には適用されません。

2、自転車の運転者が道路交通法違反で処罰されるケース

自転車の運転者のなかには「自転車は運転免許証を必要としないので、交通違反をしても処罰されない」と考えている人が少なくないようです。

ここでは、自転車運転でも道路交通法違反として厳しく処罰されるケースを挙げていきましょう。

  1. (1)飲酒運転で歩行者を負傷させた

    道路交通法第65条1項は、車両の種類にかかわらず、すべての運転者に対して「酒気を帯びて車両等を運転してはならない」と定めています。

    つまり自転車も自動車と同じく「飲酒運転は禁止」と規定されていますが、酒気帯び運転に該当する場合は罰則がありません。

    一方で、酒酔い運転に該当すれば自動車の場合と同じ扱いを受けて、5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。自転車による飲酒運転は、街頭での取り締まり活動が盛んではないので「飲酒運転をしても発覚しない」と思われがちです。

    ただし、歩行者と接触する、自転車同士の接触で相手に怪我をさせるなどの状況があれば警察に発覚する可能性が高く、厳しい処罰を受けるでしょう。

  2. (2)スマホをみながら歩行者に衝突して死亡させた

    スマホを操作しながら自転車を運転する、いわゆる「ながらスマホ」は、道路交通法第71条6号の「運転者の遵守事項」に基づいて定められる各都道府県の規定に違反します
    さらに、歩行者に衝突して死亡させた場合は刑法第211条の「重過失致死罪」に該当し、5年以下の懲役または100万円以下の罰金という重い刑罰が科せられてしまいます。

  3. (3)自動車に対するあおり運転で相手を負傷させた

    自転車は、一般的な交通ルールやマナーにおいては歩行者と同じく交通弱者として扱われます。

    ただし、たとえ自転車でも、自動車に対してあおり運転をすれば、自動車と同じく妨害運転罪が適用されて処罰を受けるので注意が必要です

    また、相手に怪我を負わせれば、刑法第209条1項の「過失傷害罪」や同第211条の「業務上過失傷害罪」に問われる可能性もあります。

    過失傷害罪の法定刑は30万円以下の罰金または科料、業務上過失傷害罪では5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科せられます。

3、自転車事故で加害者になった場合の責任

自転車の運転中に事故を起こして加害者になってしまうと、刑事上の責任と民事上の責任の両方を負うことになります。

  1. (1)刑事事件の被疑者として逮捕される

    たとえ自転車でも、交通事故の加害者になれば道路交通法違反の被疑者となります。行為が悪質であったり、被害が重大であったりすれば、事故現場において現行犯逮捕されるおそれも十分になるでしょう。

    逮捕されてしまえば、警察の段階で48時間、検察官の段階で24時間の合計72時間にわたる身柄拘束を受けたのち、勾留によって最長20日間まで身柄拘束が延長されます。

    仕事や学校を長く休むことになり、社会復帰が難しくなってしまう事態も想定されるでしょう。

  2. (2)刑事裁判で被告人として刑罰を受ける

    警察の捜査が終了すると、すべての書類・証拠は検察官へと引き継がれます。
    検察官は、自身による取り調べ結果や関係書類を精査したうえで「起訴」または「不起訴」を決定します。

    検察官から起訴されると、それまで被疑者として扱われていた立場が「被告人」となり、刑事裁判を受ける立場となります。
    刑事裁判の被告人となれば、数回の公判を経たのちに判決が下されて刑罰に処されます。

  3. (3)民事上の賠償責任を負う

    交通事故の加害者は、被害者の入通院にかかる医療費・精神的苦痛に対する慰謝料・車両などの修理費・休業補償などの賠償責任を負います。

    負傷や損壊の程度が大きければ賠償責任も大きくなるので「自転車だから」といって賠償責任が軽くなるわけではありません。

    平成27年には、無灯火で自転車を運転していた男子高校生が、警察官からの職務質問を逃れようとしたところ立ちふさがった警察官に衝突して死亡させた事件が発生しました。
    この事例で裁判所は、当時高校生だった男性に対して約9400万円の損害賠償を命じています。

4、自転車事故で逮捕されてしまった場合にとるべき行動

自転車の運転で交通事故を起こしてしまい逮捕されたとき、どのような行動をとるべきなのでしょうか?

  1. (1)謝罪と賠償を尽くして示談成立を目指す

    交通事故が発生してしまった事実は、あとからどのような行動をとっても変えようがありません。

    まずは被害者に対して真摯に謝罪したうえで、賠償を尽くして示談成立を目指しましょう。被害者との示談が成立すれば、早期の釈放や不起訴処分が期待できますまた、示談交渉によって賠償額の折り合いがつけば、民事訴訟で争う負担も軽減できます

    近年では、自転車運転者への保険加入を義務付ける自治体が増えています。
    岸和田市を含む大阪府でも、平成28年7月1日に「大阪府自転車条例」が制定され、自転車保険への加入が義務付けられました。事故の相手を死傷させてしまったケースでは、保険加入が大きな助けとなるでしょう。

  2. (2)悪質な違反ではなかったことを主張する

    あおり運転に対する厳罰化を目的として妨害運転罪が新設された気運から、ほかの車両の通行を妨害する目的などはなかったのに「あおり運転だ」と疑いをかけられてしまうケースも考えられます。

    ほかの車両の通行を妨害する目的がない場合は、自転車運転者講習制度の対象となる危険行為とみなされたとしても、妨害運転罪は成立しません。

    あらぬ疑いをかけられてしまったのであれば「妨害する目的はなかった」と悪質な違反ではなかったことを取り調べの場などでしっかりと主張することが大切です。

  3. (3)弁護士に相談してサポートを得る

    自転車事故で逮捕されてしまった場合は、ただちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。弁護士に被害者との示談交渉を一任すれば、スムーズな解決と重い刑事責任の回避が期待できます。

    賠償責任に関する交渉においても、数多くの事故事例を経験している弁護士が交渉することで、無用に重い負担が課せられる事態を回避できるでしょう

5、まとめ

昔から「自転車も『車』の仲間」といわれています。法律のうえでも自転車は「軽車両」として車両に含まれており、道路交通法の規制を受けるほか、新たに創設された「妨害運転罪」の処罰対象となっています。

自転車でもあおり運転をすれば妨害運転罪で処罰され、交通事故につながって相手を死傷させれば厳しい刑事責任と重い賠償責任の両方を負うことになるので注意が必要です。

自転車の運転で事故を起こしてしまい、妨害運転罪などの疑いをかけられて逮捕されたり、被害者から多額の損害賠償を請求されたりしてお困りであれば、ただちに弁護士へ相談しましょう

自転車事故に関するトラブルの解決は、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスにお任せください。交通事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が全力でサポートします。

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