傷害で被害届を出された! 逮捕の可能性や示談の効果は?
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大阪府警察が公開している統計によると、令和5年に岸和田市内で認知された傷害事件は41件、うち検挙された事件は35件です。単純に計算すれば「8割以上は検挙に至っている」ことになるため、傷害罪は検挙されやすい犯罪だといえるでしょう。
傷害事件の加害者になってしまうと「警察に逮捕されるのではないか?」と不安に思う方もいるでしょう。もっとも、傷害事件を起こしてしまい、被害者が被害届を提出したとしても、加害者が必ず逮捕されてしまうというわけではありませんし、必ず厳しい刑罰が科されるとも限りません。
本コラムでは、傷害事件を起こして被害届を提出された場合の逮捕の可能性や、逮捕後の流れ、事件の穏便な解決に有効な“示談”の効果などについて、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。


1、被害者が被害届を提出したあとの流れ
傷害事件において被害者が警察に被害届を提出したあとは、以下の流れで捜査が進みます。
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(1)警察官が被害状況を確認する
まずは警察官が被害者から詳しい被害状況を確認します。
単に被害者が怪我をしているというだけでは、それが傷害事件によるものなのかが明らかではありません。
被害者は、いつ、どこで、誰から、どのような暴行を受けて負傷したのかといった、事件の詳細な状況を聴取されることになるでしょう。
また、なぜそのようなトラブルに発展したのかといった情報も聴取されるため、加害者との関係や事情なども警察官の知るところになります。 -
(2)被害届の受理に先立って捜査が進むこともある
警察は、被害届の受理に先立って、ある程度の裏付け捜査を進める場合があります。
その場合であっても、被害者に対して医師の診断書の持参を求めたり、目撃者から事情を聴取したりするなどして、捜査が進められることになります。 -
(3)被害届の受理後は本格的な捜査がはじまる
警察が被害届を受理すると、本格的な捜査がはじまります。
傷害事件における具体的な捜査は、被害者や目撃者、その他の参考人から詳しい事情を聴取する事情聴取、警察官らが現場を訪れてその状況を詳しく観察する実況見分、そして加害者の取り調べなどが基本的な捜査です。 -
(4)逮捕の要否は慎重に判断される
傷害罪の容疑をかけられたからといって、必ず逮捕されるわけではありません。逮捕が可能となるのは、罪を犯したことを疑うに足りる「相当な理由」と、被疑者が逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあるという「逮捕の必要性」の2つの要件を満たしているときに限ります。
令和5年版の犯罪白書によると、刑事事件を起こして逮捕された人の割合を示す「身柄率」は、傷害罪で50.2%でした。
つまり、およそ半数は逮捕されているものの、残る半数は身柄を拘束されずに捜査の対象となる「在宅事件」として処理されているのです。
被害者が被害届を提出したとしても、逃亡や証拠隠滅を疑われない限り逮捕されません。
たとえば、警察からの出頭要請を正当な理由なく拒否した、被害者に「事件のことを警察に話してはいけない」などと言って圧力をかけた、などといった事情があれば、逃亡や証拠隠滅の危険があるとして、逮捕される可能性が高くなります。
そのため、警察から出頭要請があれば基本的には素直に出頭する必要がありますが、警察での事情聴取に向けて弁護士のアドバイスを得てしっかりと準備すると安心です。 -
(5)逮捕されると最長23日間拘束される
警察に逮捕されると、まずは警察において48時間以内の身柄拘束を受けたあと、そのほとんどが検察へと送致され、さらに24時間以内の身柄拘束を受けます。
ここまでが逮捕による身柄拘束で、その効力が合計72時間を超えることはありません。
ただし、検察官が勾留を請求して裁判官がこれを許可すると10日間、勾留延長がなされるとさらに10日間、合計で20日を限度に身柄を拘束されることとなります。
つまり、逮捕・勾留による身柄拘束は最長23日間にわたり、その間は自宅へ帰ることや会社や学校へ行くことは許されませんし、家族、会社の上司や同僚、友人、その他の知人に直接連絡を取ることも困難です。
逮捕・勾留が長引くと社会復帰が難しくなり、離婚、解雇、退学といった不利益を招くおそれがあります。 -
(6)起訴されると刑事裁判が開かれる
検察官が事件を起訴するか否を決定する権限をもっています。
検察官は、事件の捜査を行って証拠を集めたうえで、「裁判になれば有罪判決が下されるだけの証拠がそろっている」と判断した事件に限り、起訴の判断を行うのです。そのため、裁判において無罪判決が言い渡される可能性は限りなく低いのが実情です。
令和5年版の犯罪白書によると、令和4年に警察等で検挙されて裁判が確定した20万272人のうち、無罪判決を受けた人の数はわずか60人でした。
無罪判決が占める割合は全体のわずか約0.03%です。起訴されればほぼ有罪という状況が明らかになっています。
2、傷害罪で科せられる刑罰
「傷害罪」は刑法第204条に定められている犯罪です。「人の身体を傷害した者」が処罰の対象で、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処すると明記されています。
刑法において懲役と罰金につき下限が定められており、傷害罪を犯して科せられる刑罰は、基本的には次のとおりとなります。
- 1か月以上15年以下の懲役刑
- 1万円以上50万円以下の罰金刑
たとえば、どんなに凶悪な傷害事件を起こしたとしても、死刑が選択されたりすることはなく、一方で軽微な傷害事件であっても、拘留や科料といった軽い刑罰が選択されたりすることはありません。
なお、刑罰の上限・下限も法律が定めた範囲を超えることはありませんが、複数の犯罪で同時に審理された場合や、裁判官が「刑の減軽」を認めた場合は、その上限・下限が変動します。
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(1)実際の科刑状況
裁判所が公開している令和5年版の司法統計によると、令和4年、傷害罪で有罪判決を受けて懲役に処された人数は全国で1822人、罰金に処された人数は全国で317人でした。
うち、それぞれの量刑状況は以下のとおりです。【懲役……1822人】 - 25年以下……1人
- 15年以下……8人
- 10年以下……31人
- 7年以下 ……19人
- 5年以下……67人
- 3年以下……実刑22人・一部執行猶予0人・全部執行猶予70人
- 2年以上……実刑95人・一部執行猶予1人・全部執行猶予312人
- 1年以上……実刑261人・一部執行猶予1人・全部執行猶予590人
- 6か月以上……実刑149人・一部執行猶予0人・全部執行猶予173人
- 6か月以上……実刑18人・一部執行猶予0人・全部執行猶予6人
【罰金……317人】 - 100万円以上……0人
- 50万円以上……12人
- 30万円以上……98人
- 20万円以上……108人
- 10万円以上……89人
- 5万円以上……9人
- 3万円以上……0人
- 2万円以上……1人
- 1万円以上……0人
- 1万円未満……0人
この統計をみると、傷害罪で処罰された人のうち、懲役刑を言い渡された数が圧倒的に多いです。その多くは、期間が6か月未満~3年で、その全部について執行猶予が認められていることがわかります。
つまり、傷害罪は厳しい刑罰が定められている犯罪ではありますが、必ずしも厳しい刑罰が科せられるわけではないのです。しかし、刑罰を軽くしたいと望むなら、次に説明するように事件を起こしてしまった後の適切な対応が必要です。
3、傷害罪で被害届を出されたら? 弁護士に相談すべき理由
傷害事件を起こして被害者が被害届を提出すると、警察による捜査が進められます。そのまま放置していると、逮捕されたり、裁判にかけられたりして刑罰を受けてしまう危険があるため、素早い対応が必要です。
傷害事件を穏便に解決するためには弁護士のサポートが欠かせません。では、弁護士に依頼することでどのようなサポートが期待できるのでしょうか?
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(1)被害者との示談交渉による素早い解決が期待できる
「示談」とは、トラブルの当事者同士が裁判外で話し合って解決を図ることです。加害者が被害者に対して謝罪したうえで、被害届の取り下げを条件に慰謝料などを含めた示談金を支払うという流れが一般的です。
被害者との間で示談が成立して被害届が取り下げられると、警察や検察官は「すでに被害者には『加害者を厳しく罰してほしい』という意思がない」と判断します。
警察が逮捕に踏み切るよりも前に示談を成立させれば、逮捕される可能性はほとんどなくなるでしょう。さらに、被害者が警察に相談するよりも前に示談を成立させれば、そもそも警察に事件を認知されないまま、事件を解決してしまうことも可能です。
もっとも、傷害事件の被害者は加害者に対して「怖い」「憎い」といった負の感情を抱いているケースが多く、加害者本人が示談交渉をもちかけても、被害者は相手にしてくれないかもしれません。
被害者の警戒心を和らげたうえで円滑な示談交渉を進めるには、加害者本人ではなく、弁護士を代理人とした対応が必須となります。 -
(2)逮捕後の早期釈放が期待できる
警察に逮捕されてしまうと、簡単には釈放されません。
検察官の請求によって「勾留」を受けると身柄拘束が延長され、起訴までに最長で23日間、起訴されるとそれに加えて刑事裁判が終わるまでの期間、自宅に帰してもらえないケースもあります。
早期の釈放は誰もが望むことですが、残念ながら逮捕された本人が「早く釈放してほしい」と求めても、そう簡単には聞き入れてもらえません。満期を迎えるよりも前に釈放されるためには、身柄拘束の必要がないことを捜査機関や裁判所に説得的に示す必要があります。
そのためには、裁判官の決定に対する不服申立てである「準抗告」や、勾留の取り消し請求といった法的手続きをとる必要があり、弁護士のサポートが必要です。 -
(3)刑罰の軽減が期待できる
傷害罪で有罪になると、刑罰は避けられません。
実際の刑事裁判では、法律が定める範囲で、どの程度の刑罰が適切なのかが総合的に判断されることとなります。
刑罰を軽減するためには、罪を犯した動機に酌量の余地があることや、再犯可能性の低さ、反省の程度などを立証して、裁判官によい印象をもってもらう必要があります。
容疑者本人が口頭で説明するだけでは、説明の仕方によっては、「反省していない」「罪を逃れようとしている」などと誤解されてしまうおそれもあります。
深く反省していることやその他の有利な事情について、弁護士が証拠を用いて立証を尽くすことで、裁判官に対し、軽い刑罰が相当だと判断させることができるのです。
お問い合わせください。
4、逮捕を避けるためには示談成立を目指す
逮捕・勾留による不利益や厳しい刑罰を避けるためには、素早い示談交渉が欠かせません。
示談交渉が進まないまま捜査が進行してしまうと、それに伴って逮捕、勾留、起訴、そして有罪判決と、手続きが進行してしまいます。
示談交渉を迅速に進め、示談を勝ち取ることで、手続きの進行を食い止めることができます。
被害者が被害届を提出するよりも前に示談が成立すれば、捜査機関に事件が発覚しないまま解決できるかもしれません。
警察が逮捕に踏み切るよりも前なら、逮捕の回避が可能かもしれません。逮捕された後でも、示談が成立すれば、検察官が不起訴処分を下す可能性が高いです。そうすれば、前科はつかず、身柄もすぐに釈放されることとなります。
仮に起訴されてしまっても、刑の減軽が期待できるでしょう。もっとも、ここまで手続きが進んでしまえば、示談が成立したとしても刑罰は免れません。
素早い示談成立に向けて、ただちに弁護士に相談して被害者との示談交渉を依頼するのが最善策です。
5、まとめ
傷害事件を起こして被害者に被害届を提出されてしまうと、逮捕・勾留による身柄拘束や裁判にかけられて刑罰を科される可能性が高まります。
逮捕・勾留や厳しい刑罰を避けるためには、被害者との示談交渉を急ぐべきです。
示談のためには弁護士のサポートは欠かせないため、傷害事件を起こしてしまった方は、早急にベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスにご相談ください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が全力でサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています