養育費をさかのぼって請求したい! 未払い請求の方法と消滅時効

2022年05月11日
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養育費をさかのぼって請求したい! 未払い請求の方法と消滅時効

岸和田市では、毎年少なくない夫婦が離婚を選択しています。大阪府が発表した『令和元年 人口動態調査の結果』によると、同年度の岸和田市における離婚件数は388件でした。

子どものいる夫婦が離婚する際に揉めがちなのは、養育費の問題です。養育費とは、未成熟の子どもが経済的・社会的に独立するまでにかかる生活費・教育費・医療費などの総称です。離婚時に養育費について合意ができても、その後支払いが途絶えるケースは非常に多いです。

相手に再三請求しても養育費が支払われないまま一定期間経過した場合、過去にさかのぼって未払いの養育費を請求することはできるのでしょうか。ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。

1、未払いの養育費を獲得するための法的手段

  1. (1)家庭裁判所による履行勧告、履行命令

    相手に養育費を支払うよう連絡しても応じてくれない場合は、以下の法的措置をとることができます。

    ● 履行勧告(家事事件手続法第289条)
    履行勧告は、家庭裁判所に申し出をすると、不履行の理由などを調査した上で、家庭裁判所から相手に「養育費をきちんと支払ってください」と忠告してくれる制度です。

    家庭裁判所から直接注意されたことで相手がプレッシャーを感じ、反省して支払いを再開してくれる可能性があります。しかし、履行勧告に従わなかったとしてもペナルティーはなく、強制力はありません。

    ● 履行命令(同法第290条)
    履行命令は、養育費の支払い命令に従わないと“10万円以下の過料”が科せられるという制度です。しかし養育費そのものを強制的に回収するような強い効果はありません。

  2. (2)地方裁判所に申し立てて強制執行

    履行勧告と履行命令にも応じてくれない場合には、より強力な手段として相手の財産に強制執行をかけるという方法もあります。強制執行は、地方裁判所に申し立てをする必要があります。

    強制執行の制度を利用するためには、いくつか条件があります。

    ひとつ目は、債務名義と呼ばれる“権利の存在を公に証明する文書”を持っていることです。たとえば公正証書、調停調書、確定判決などがあります。離婚協議書は債務名義ではありませんので、強制執行をかけることはできません。

    ふたつ目は、相手がどこにどのような財産を持っているのか特定できていることです。強制執行の対象となる財産には、預貯金口座、有価証券、不動産、給与債権などがあります。それぞれの金融機関名・支店名、勤務先などをあらかじめ把握しておかなければ、裁判所に強制執行を申し立てることができません。

  3. (3)相手の財産を調べる方法│財産開示手続き・情報取得制度

    強制執行をかけたいけれど相手の財産が不明である場合は、債務名義を持っていれば、“財産開示手続き”(民事執行法第196条以下)と“第三者からの情報取得制度”(民事執行法第204条以下)を利用することができます。

    財産開示手続きとは、裁判所から相手に対して、財産を開示するよう命令してもらう制度です。その際に相手が裁判所の命令を無視したり、うその財産情報を伝えたりした場合には、“6か月以下の懲役または50万円以下の罰金”を科せられる可能性があります。

    そして第三者からの情報取得制度は、金融機関、市区町村役場、日本年金機構、登記所などの第三者から相手の財産情報を提供してもらえる制度ですこれにより、強制執行に必要な相手の財産情報を得ることができます

    強制執行は煩雑な手続きが必要です。検討する場合には、離婚問題の実績ある弁護士に依頼し、適切なサポートを得るのが得策です。

2、過去にさかのぼって養育費を請求できるか?

  1. (1)さかのぼって請求できる可能性はある

    公正証書などにより養育費の取り決めをしたにもかかわらず途中から支払われなくなった場合、その分をまとめて請求できる可能性があります。

    ただし、離婚時に取り決めをしなかった場合については、取り決め前の養育費についても請求できるのかどうかが問題となります。このようなケースについて過去の判例は、「請求できる」としたものとそうでないものに分かれています。

    また、相手に過去の養育費を請求することが認められたとしても、相手の資力が乏しければ回収することは実質的に困難でしょう。

    取り決め前の養育費を回収できるか否かはケース・バイ・ケースですまずは弁護士に相談し状況を詳しく説明することからはじめましょう

    なお、養育費の請求権にも消滅時効がありますので、注意してください。

  2. (2)将来の養育費として増額請求する方法

    過去に受け取れなかった養育費の代わりに、将来の養育費について増額請求するという方法もあります。養育費の増額請求は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てて行います。

    しかし必ずしも増額が家庭裁判所に認められる訳ではありません。公正証書や調停調書などで一度決定した養育費の金額は、大きな事情の変更がなければ原則として認められないとされています(民法第880条)。

    たとえば、以下のような事情が、養育費増額に影響します。

    • 親経済状況の悪化
    • 健康状態の変化
    • 再婚
    • 扶養家族の増加
    • 物価の高騰
    など


    こうした、協議や調停の際に予見されなかった事情が生じ、かつ前の決定を維持することが困難な程度に顕著な事情の変更があった場合であれば、例外的に養育費の増額が認められる可能性があります。

  3. (3)子どもが「扶養料」の請求をする方法

    一方、子ども自身が親に「扶養料」を請求することも可能で、これは父母間で行われた養育費の取り決めに拘束されるものではないと考えられています。

    養育費は本来子どもの利益のためのお金であるにもかかわらず、子ども自身はその取り決めに関与していないことがほとんどだからです。

    子ども自身から親に対する扶養料の請求は民法第877条に、離婚した親同士での養育費の請求は民法第766条に基づいており、根拠条文が異なります。

    扶養料と養育費の内容は“子育て費用”という点で同じですが、実務上では全く別のものとして扱われ、両方を重複して請求することも可能と考えられています。

  4. (4)子どもと親権者それぞれが請求した事例

    子どもからの扶養料請求と親権者からの養育費請求とが重複する場合、その調整は裁判所の裁量に委ねられます。

    過去の事例では、父母間の養育費の取り決めについて以下のようにと示しています(仙台高裁昭和56年8月24日)。

    • 「(子どもには)何らの拘束力を有せず、単に扶養料算定の際しんしゃくされるべき一つの事由となるに過ぎない」
    • 「前記和解に基づく養育料を支払ったからといって当然に本件扶養審判において差引計算をしなければならぬ筋合のものでもない」


    養育費の話し合いや交渉で納得がいかない場合には、子ども自身による扶養料請求も検討するべきかもしれません。ただし具体的な手続きについては、弁護士のサポートが欠かせないでしょう。

3、養育費の消滅時効とは

養育費の請求権にも、消滅時効があります消滅時効が過ぎると一切養育費を請求できなくなってしまいますので、注意が必要です

離婚協議書や公正証書に記載されている場合には支払期日より5年(民法166条1項1号)、確定判決や調停・審判調書に記載されている場合には支払期日より10年(民法169条1項)となっています。

たとえ消滅時効の期間が経過していなくても、養育費の未払い分が蓄積するほど相手から一括で回収することも難しくなる傾向があるため、早い段階から対策を講じることが非常に大切です。

4、日本の養育費受給率は低い

日本では養育費受給率の低さが問題視されており、最近ではさまざまな対策が進められています。

『平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告』によると、養育費について「取り決めをしている」と答えた母子世帯の母は42.9%(前回調査37.7%)、父子世帯の父では20.8%(前回調査17.5%)でした。

また、「養育費を受けたことがない」のは56.0%、半数以上の人が一度も養育費をもらったことがないことが明らかとなっています。

さらに、「現在も養育費を受けている」のは24.3%、「養育費を受けたことがある」が15.5%。
全体の8割は、継続的に養育費を受け取ることができていません。せっかく養育費の取り決めをしても、何らかの事情により養育費の支払いが途中で途絶えてしまうケースが非常に多いのです。

養育費は子どもの将来を育むための大切なお金です途中で止まってしまった未払い分を取り戻すために、まずは弁護士に相談することをおすすめします

5、まとめ

養育費はさかのぼって請求できることも多いですが、相手の現在の経済状況によっては未払い分を全額回収することが難しいケースもあります。また、離婚を選択した夫婦にとって、養育費の未払い請求や増額交渉は、精神的負担が大きいことでしょう。

弁護士は、相手との交渉から裁判所などの手続きまで幅広くサポートします。また、状況に応じて、養育費を少しでも多く獲得するための対策も提案します。養育費についてお悩みの際は、ぜひベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています