不貞(不倫)の口外禁止条項を示談書へ記載すると慰謝料に有利なの?
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大阪府が公表している『平成30年 人口動態調査の結果 』によると、岸和田市における同年度の離婚件数は400件でした。離婚原因は夫婦によってさまざまですが、配偶者による不貞行為(不倫)が原因のケースは少なくありません。
不貞行為は、夫婦の信頼関係を壊し、片方の心を深く傷つける行為です。「慰謝料だけでは不十分、不倫相手にも配偶者にも社会的な罰をあたえたい」という思いを抱く被害者の方もいるのではないでしょうか? たとえば夫が不倫をしていた場合、夫の職場や、不倫相手の両親にも不倫があったことを訴えたいと思ってしまうかもしれません。
一方で、夫や不倫相手にとっては、不倫の事実を口外されると、社会的評価が下がり不利益を被ることになるため、なんとしても避けたいでしょう。夫や不倫相手は、「なるべく多く慰謝料を支払うので誰にも言わないでほしい」などと交渉してくるかもしれません。この場合、どういった対処をすればいいのでしょうか。岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、口外禁止条項とは?
口外禁止条項とは、当事者間で作成した誓約書に記載する、「事実を当事者以外の人には話しません」という約束です。不貞行為の他、労働事件における解雇理由や示談内容などが、対象となることがあります。
配偶者の不倫において、不貞の事実を口外しないと約束をすることは、加害者である不倫当事者にとってはメリットである一方、被害者にとっては事実を口外できないというデメリットになります。しかし、口外禁止条項を定めると譲歩することによって、より多くの慰謝料をもらえる可能性があります。
2、不倫をばらすことのリスク
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(1)名誉毀損罪
不倫によって心を傷つけられた被害者としては、「不倫の事実を周囲に伝えたい」と思うのは自然な感情といえるでしょう。
しかしたとえ本当のことであっても、その人の名誉を傷つけるような事実を不特定多数の人の前で指摘してしまうと、名誉毀損罪(刑法第230条)に該当するおそれがあります。名誉毀損罪は親告罪ですので、被害者自身が加害者を知ってから6か月以内に告訴されれば刑事事件へと発展するおそれがあります(刑事訴訟法235条1項)。
もしあなたが不倫の事実を相手の会社などへ吹聴したとして、不倫当事者が6か月以内に名誉毀損罪であなたを告訴すれば、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金を科されるかもしれません。さらに、民事訴訟でも慰謝料を請求されるおそれもあります。 -
(2)侮辱罪
侮辱罪は、事実でないことを言って他人を侮辱する行為のことです(刑法第231条)。たとえば、「バカ」「アバズレ」「クズ」などのののしり言葉は、あくまでも個人的な感想・意見であって、客観的な事実とは断定できない場合があります。
侮辱罪の刑罰は、拘留または科料です。拘留とは、1日~30日未満の間、刑事施設に拘置されること(刑法第16条)で、科料は1000円~1万円未満の罰金を支払うことです(刑法第17条)。なお侮辱罪は、名誉毀損罪と同じく親告罪です。
不倫で傷つけられたうえに、さらに侮辱罪にまで問われることにならないよう、合法的な制裁を検討しましょう。 -
(3)脅迫罪
「不倫をバラす」「バラされたくなかったら○○しなさい」と脅す行為は、脅迫罪に問われることになるかもしれません。
脅迫罪とは、他人やその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫する罪のことです(刑法第222条)。したがって、「不倫をバラす」と脅した場合には、不倫当事者の名誉に対し害を加えると告知したとみなされる可能性があります。
脅迫罪で告訴された場合の刑罰は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金であり、侮辱罪より重くなっています。さらに民事訴訟で慰謝料を請求されるリスクも考えられます。
精神的につらくて怒りが抑えられない場合は、弁護士に相談するのもひとつの方法です。弁護士であれば「どんな言動が合法か、違法か」を熟知しているため、不利にならないよう冷静なアドバイスをすることができます。また、相手の落ち度や矛盾点を厳しく追及し、慰謝料獲得のための交渉もできるでしょう。
3、口外禁止条項は慰謝料増額に有効か
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(1)口外禁止条項を条件に慰謝料増額を交渉
不倫において、もっとも合法的な制裁の方法は慰謝料の請求です。
不倫が発覚した後は、不倫当事者と被害者とで話し合いの機会をもつケースもあるでしょう。その際に、誓約書に“口外禁止条項”を記載することを条件に、より多くの慰謝料の支払いを求めて交渉することができます。
なお、交渉においては、弁護士が同席することでスムーズに進む可能性が高まります。慰謝料等について合意した内容は、誓約書(示談書・合意書)などの書面として残しておきましょう。 -
(2)不貞の慰謝料が高くなる具体例
口外禁止条項を条件に交渉する以外にも、以下のような要因があれば慰謝料を増額できる可能性があります。
- 不貞によって離婚に至った
- 不貞の期間が長い、回数が多い
- 夫婦の婚姻期間が長い
- 不貞発覚前は夫婦円満だった
- 被害者に未成熟子がいる、妊娠している
- 不貞相手が妊娠している
- 加害者の収入・資産が多い
- 反省の態度が見られない、誠実さに欠ける
- 不貞行為を「やめる」と言いながら繰り返していた
不貞行為の悪質性が高ければ高いほど、被害者の精神的苦痛もより大きなものになると考えられています。そのため、過去の判例では、上記に当てはまる場合には慰謝料が高額になる傾向がありました。当てはまる行為があるか、相手との交渉前に確認をしておきましょう。
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(3)口外禁止条項に違反した場合
もし、口外禁止条項に違反して、不倫の事実を友人・知人に口外してしまった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、被害者となる不倫当事者から損害賠償金を請求されるおそれがあります。ただし、そのためには被害者側が“あなたが不倫を口外した”ということを立証する必要があります。
また、不倫当事者との示談が成立するまでの間に、ごく親しい友人・知人に口外した場合には、責任を追及されない可能性が高いと考えられます。
ただし、立証が難しいからと言って、口外禁止条項に違反することがないよう注意しましょう。有力な証拠を集められて損害賠償請求されるリスクはゼロではありませんし、慰謝料増額の切り札として意味をなさなくなるからです。
4、口外禁止条項を誓約書(示談書・合意書)に記載する際の注意点
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(1)不貞の誓約書(示談書・合意書)とは
不貞が発覚した後に当事者で示談を行う際に、「言った、言っていない」のもめ事に発展することを回避するため、合意した内容を誓約書(示談書・合意書)という形で、書面に残すことがあります。
書面に残す際には、約束した慰謝料を確実に支払わせるために、公正証書という形で残すことがおすすめです。公正証書とは、公証役場で、公証人立ち会いのもと作成する公文書です。公正証書に「慰謝料の支払いを怠った場合には給与・銀行預金等に強制執行を受けても構いません」という旨の強制執行認諾文言を記載すると、もし支払いが成されなかった場合に強制執行をかけることができます。
不貞の誓約書に記載するのは、一般的に以下のような条項です。- 不貞の事実、謝罪の言葉
- 接触禁止条項
- 慰謝料の金額・支払い方法・支払期限
- 求償権の放棄条項
- 口外禁止条項
- 違約条項
- 精算条項
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(2)各条項の注意点
ここでは、慰謝料に関してとくに重要な条項の注意点を解説します。
●慰謝料の金額・支払い方法
慰謝料の金額・支払い方法・期限は、明確に定めておきましょう。また、期限に間に合わなかった場合の遅延損害金についても記載しておくと、確実な支払いへの後押しになるでしょう。
なお、遅延損害金の年利は、利息制限法に以下の通り定められています。
元本10万円未満の場合……年29.2%
元本10万円以上100万円未満……年26.28%
元本100万円以上……年21.9%
●求償権の放棄条項
不貞は、不倫当事者2名による共同不法行為です。不法行為の責任は加害者が共同で負うことになります。そのため、不倫相手の女性が慰謝料全額の100万円を支払った場合、不倫相手の女性は夫に対して50万円の負担分を請求することができます。これを求償権といいます。
したがって、夫婦の再構築を選んだ場合、せっかく不倫相手から慰謝料を100万円もらっても、その後不倫した夫が50万円求償されて家計から支払うことになり、結局50万円しかもらえないということになりかねません。
そのような不利な状況を防ぐために、求償権の放棄を約束させることがあります。
●口外禁止条項
口外禁止条項は不倫当事者にとって有利な条項です。口外禁止条項について違約金の記載を求められることがあるかもしれませんが、その際はすぐに合意せずに弁護士に相談しましょう。
●違約条項
接触禁止条項に違反して不倫当事者が再び密会していた場合について、違約条項を記載することがあります。違約金の金額は、原則として自由ですが、不貞の責任に対してあまりにも高額すぎると判断された場合には無効となるおそれがあります。
●精算条項
精算条項とは、「誓約書で約束したこと以外は今後一切お互いに請求しません」という約束です。紛争に決着をつけるためには、大切な条項です。しかしその分、他の条項の内容について慎重に検討してからでないと、後で悔やむことになりかねません。
誓約書の内容について不安がある場合は、弁護士に相談しましょう。
5、まとめ
不貞がたとえ事実であっても、職場や地域社会に言いふらすと名誉毀損罪・侮辱罪・脅迫罪に問われるリスクがあります。合法的な制裁は、納得できる金額の慰謝料を請求することです。
しかし相手と直接交渉すると、互いに感情的になり言い争いに発展し交渉が難航してしまうケースが少なくありません。冷静かつ力強く言い分を伝えるためには、やはり弁護士の力を借りることがおすすめです。
もしすでに不貞を口外してしまっていたとしても、弁護士に依頼することによって、相手からの反撃を最小限に抑えることができるかもしれません。ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士は不貞によるさまざまなトラブルにも対応しておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
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