求償権の放棄とは。メリット・デメリットや具体的な方法・流れ
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- 求償権放棄
配偶者の不倫が発覚した場合、離婚するかどうかは被害者であるご自身の判断に委ねられます。
仮に配偶者と離婚しない場合でも、不倫相手に対して慰謝料を請求することはできます。その場合、不倫相手から配偶者に対する求償権行使を防ぎ、不倫慰謝料の問題を一挙に解決するため、求償権放棄の合意をするケースが多いです。
今回は、不倫慰謝料に関する求償権放棄の概要・メリット・デメリット・手続きなどを、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、不倫慰謝料に関する「求償権放棄」とは?
まずは、不倫慰謝料に関する「求償権放棄」とは何かについて、基本的な概要を理解しておきましょう。
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(1)不倫慰謝料の求償権とは?
配偶者が不倫をした場合、被害者は配偶者と不倫相手に対して、不法行為責任を負います。
配偶者と不倫相手の不貞行為は共同不法行為となるため、被害者に生じた損害を連帯して賠償しなければなりません(民法第719条第1項)。
すなわち被害者は、連帯債務者である配偶者と不倫相手のどちらに対しても、損害全額の賠償を請求できます(二重取りは不可)。
ただし配偶者と不倫相手の間には、不倫に関する責任の割合に応じた、内部的な損害賠償の負担割合が存在します。
よって、どちらか一方が被害者の損害を賠償した場合、もう一方に対して、賠償した金額の範囲内で、負担割合に応じた求償を行うことができます。この求償を行う権利が、不倫慰謝料の「求償権」です。
たとえば、被害者に100万円の精神的損害が生じ、その全額を不倫相手が支払ったとします。仮に配偶者と不倫相手の負担割合が50%ずつだとすれば、不倫相手は配偶者に対して求償権を行使し、100万円の50%である50万円の支払いを求めることができます。 -
(2)不倫慰謝料の求償権は放棄可能
不倫慰謝料の求償権を行使するかどうかは、債権者(権利者)が自由に決定することができます。
したがって、求償権を行使せずに放棄することもできます。被害者が配偶者と離婚しない場合、被害者は、不倫相手に対し、不倫慰謝料の求償権の放棄を求めることがあります。
被害者が配偶者と離婚しない場合、配偶者に対して慰謝料の支払いを請求しても、家計内でお金が動くだけであまり意味がありません。そのため、離婚しないケースでは不倫相手にのみ慰謝料を請求するのが一般的です。
しかし、被害者が不倫相手に対して慰謝料全額を請求すると、不倫相手は配偶者に対する求償権を取得してしまいます。被害者が不倫相手から慰謝料を獲得したのに、配偶者が不倫相手の求償に応じて金銭を支払わなければならないのでは、家計内の精算が二度手間になってしまいます。
そこで、不倫慰謝料の精算を一回で済ませる方法として、不倫相手に求償権を放棄させることが考えられます。
不倫相手が支払う慰謝料を一定程度減額する代わりに、配偶者に対する求償権を放棄させれば、慰謝料請求と求償の往復を回避し、不倫慰謝料の精算を一回で済ませることができるのです。
2、求償権放棄のメリット・デメリット
不倫慰謝料の求償権を放棄するメリット・デメリットは、それぞれ以下のとおりです。
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(1)求償権放棄のメリット
不倫慰謝料の求償権を放棄するメリットは、不倫慰謝料の精算問題を一回で解決できる点です。
不倫慰謝料の精算が短期間で、かつ簡単な手続きで済むことは、慰謝料請求をする側・される側の双方にとって大きなメリットと言えるでしょう。
また、慰謝料請求と求償を画一的に処理することで、整合がとれたトラブル解決につながる点もメリットのひとつです。
それぞれの請求を別々に処理した場合、たとえば慰謝料請求では損害が200万円とされたのに、求償権行使の場面では損害が100万円とされるなどの矛盾が生じる可能性があります。
求償権放棄によって精算を一回で済ませれば、このような矛盾が生じることはないため、被害者・配偶者・不倫相手の三者間で公平な解決を図ることができます。 -
(2)求償権放棄のデメリット
求償権放棄のデメリットのひとつは、被害者・配偶者・不倫相手の三者間による協議が必要なため、交渉そのものが難航しやすい点です。
また被害者としては、たとえ三者間の和解によって不倫相手の求償権放棄が取り決められたとしても、配偶者が自発的に不倫相手に対して金銭を支払ってしまう可能性がある点に注意しなければなりません。これでは結局、家計に無駄な損失を与えてしまいます。
求償権放棄を合意する際には、併せて不倫相手が支払う慰謝料の減額についても合意をするのが通常です。
そのため、求償権放棄に伴う慰謝料減額に加えて、配偶者が不倫相手に金銭を支払った場合、被害者の家計から余分なお金が出ていってしまうことになるのでご注意ください。
3、不倫慰謝料の求償権放棄に関する手続き
不倫慰謝料の求償権放棄は、おおむね以下の手続きによって行います。
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(1)夫婦と不倫相手の三者間で和解交渉をする
不倫慰謝料の求償権放棄について合意する最大の目的は、不倫慰謝料に関する精算を一回で終わらせることです。
そのため、和解交渉は被害者・配偶者・不倫相手の三者間で行うのが望ましいです。
三者間の和解協議における主な争点は、以下の2点です。① 被害者に生じた精神的損害の金額
離婚しないケースであれば、100万円~200万円程度の範囲内に収まるケースが多いです。
② 配偶者と不倫相手の負担割合(負担額)
不倫相手の求償権は、配偶者の負担額について発生します。そのため、配偶者の負担額を取り決めたうえで、被害者の損害額から配偶者の負担額を控除した額を和解金額とすることも多いです。
配偶者と不倫相手の負担割合(負担額)は、以下に挙げる要素などを踏まえて、当事者間の協議により決定します。- 相手が既婚者であることを知っていたか、知るきっかけがあったか
- 配偶者と不倫相手のどちらが性的関係を誘ったか
- 配偶者と不倫相手の関係性
上記の金額面の条件に加えて、配偶者・不倫相手から被害者に対する謝罪や、配偶者と不倫相手の接触禁止などが取り決められるケースもあります。
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(2)和解合意書を作成して求償権放棄を明記する
不倫慰謝料の精算に関する和解がまとまったら、合意内容をすべて記載した和解合意書を作成し、和解契約を被害者・配偶者・不倫相手の三者間で締結します。
和解合意書には、求償権放棄についても必ず明記しておきましょう。(例)
「甲(不倫相手)は乙(被害者)に対して、不倫慰謝料として金100万円を支払う。なお甲は、当該不倫慰謝料に係る丙(配偶者)に対する求償権を放棄するものとする。」
なお、不倫相手から確実に慰謝料を回収するには、和解合意書を公正証書で作成することも考えられます。
和解合意書を公正証書で作成する場合において、不倫相手が直ちに強制執行に服する旨(強制執行認諾文言)を記載しておけば、万が一慰謝料が支払われなかった場合にもスムーズに強制執行を申し立てることができます。 -
(3)和解合意書に従って不倫慰謝料を精算する
和解合意書が作成され、その内容に沿った和解契約が締結されれば、その内容は被害者・配偶者・不倫相手の三者に対して拘束力を有します。
不倫相手は被害者に対して、和解合意書に定められた金額の不倫慰謝料を支払わなければなりません。
また、求償権放棄の規定に従い、不倫相手は配偶者に求償を行うことが原則できなくなります。
これにより配偶者は、特に金銭の支払い等を行う必要がなくなります。また、和解合意書に記載された清算条項(※)により、配偶者が被害者に対して負うべき慰謝料が存在しないことが確認されます。
(※清算条項:合意の当事者間に何らの権利義務が存在しない(残っていない)ことを確認する条項)
上記の要領で、和解合意書に従い、不倫慰謝料の精算が一回で行われます。
4、不倫慰謝料の請求は弁護士にご相談を
不倫慰謝料の金額目安は、過去の裁判例を基準に、不倫に関する具体的な事情を考慮して決まります。そのため、事案に応じた適正額の不倫慰謝料を知るには、法的な観点からの分析・検討が必要不可欠です。
弁護士に相談すれば、どの程度の不倫慰謝料を請求できるのかを客観的に分析・検討し、依頼者が最大限の経済的利益を獲得できるように尽力いたします。精神的な負担の大きい和解交渉等、あるいは法的に難しい論点がある求償権放棄などへの対応なども、弁護士に一任すれば安心です。
夫または妻の不倫が発覚し、不倫相手に対する慰謝料請求をご検討中の方は、早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
不倫をした配偶者と離婚しないケースでは、不倫相手の配偶者に対する求償権を放棄させることで、不倫慰謝料の精算を一回で済ませられるメリットがあります。
ただし、被害者・配偶者・不倫相手の三者による和解交渉は難航しやすいため、事前に弁護士へご相談いただくことをお勧めいたします。
ベリーベスト法律事務所は、不倫問題・離婚問題に関する法律相談を随時受け付けております。慰謝料請求・離婚請求の代行を通じて、お客さまが不倫に関するトラブルから立ち直れるように、弁護士が親身になってサポートいたします。
配偶者の不倫が発覚してお悩みの方は、お早めにベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスへご相談ください。
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