有責配偶者に財産分与の権利はあるのか? 慰謝料についても解説
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大阪府が公表している令和元年人口動態調査の結果によると、岸和田市の令和元年度の離婚件数は、388件でした。大阪府全体の離婚件数が1万6282件であったことからすると、大阪府全体の約2.4%割合を占めていることがわかります。
配偶者が不倫をしていたなど、配偶者に何らかの落ち度があって離婚をする夫婦が相当数いるものと思われます。そのような有責配偶者に対しては、離婚時に慰謝料を請求するケースは少なくないでしょう。
一方で、有責配偶者から財産分与の請求がなされることがあります。不貞などの有責配偶者であるにもかかわらず、共有の財産を分ける財産分与を請求する権利はあるのでしょうか。
今回は、有責配偶者に財産分与の権利はあるのかといった有責配偶者が離婚時に受ける制約についてベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、有責配偶者とは
有責配偶者とは、婚姻関係が破綻したことについて原因となる行為をした配偶者のことをいいます。具体的に、どのような行為をすると有責配偶者となるかは“民法が規定する離婚事由に該当する行為によって、婚姻関係を破綻させた配偶者”であると理解するとよいでしょう。
民法では、法律上離婚が認められる事由として、以下の5つを規定しています(民法770条1項)。
① 不貞行為
離婚原因となる不貞行為とは、婚姻関係にある人が配偶者以外の人と継続して肉体関係を持つことをいいます。一般的に「不倫」や「浮気」などといわれているものが不貞行為にあたると理解してもらえればよいでしょう。
ただし離婚が認められる不貞行為は、あくまでも複数回にわたり継続して肉体関係を持つことをいいますので、配偶者以外の人と食事をしたり、デートをしたりするだけでは不貞行為にはあたりません。
② 悪意の遺棄
民法752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定されています。悪意の遺棄とは、民法752条の同居・協力・扶助義務を正当な理由なく履行しないことをいいます。
たとえば、生活費を一切入れない、正当な理由なく同居を拒否する、不倫相手の家で生活をするといった行為は、夫婦の同居・協力・扶助義務に違反する行為になりますので、悪意の遺棄に該当するといえるでしょう。
③ 3年以上の生死不明
配偶者が生死不明になってから3年以上経過している場合には、これ以上婚姻関係を継続させる意義がないことから、法律上の離婚原因とされています。単に別居していて所在がわからないなど生存していることがはっきりしている場合には、生死不明にはあたりません。
生死不明の状態にある方に対しては慰謝料請求をする実益はあまりありませんが、裁判をすることによって離婚を認めてもらうことができます。
④ 回復する見込みのない強度の精神病
配偶者が統合失調症など回復する見込みがない精神病に罹患し、夫婦の基本的な義務である同居・協力・扶助義務を果たすことができないほど重症である場合には、法律上の離婚事由として認められます。
ただし、裁判所は、精神病を理由に離婚を認めることに関しては慎重な姿勢をとっています。精神病に罹患した方は、離婚をすることによって生活をすること自体困難になることもありますし、精神病に罹患したことは本人の責任であるともいえません。
そこで、精神病の程度だけでなく離婚後の生活環境なども含めて離婚事由に該当するかどうかが判断されることになります。
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
配偶者から身体的暴力(DV)、精神的虐待(モラルハラスメント、暴言など)を受けている場合には、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚事由に該当する可能性があります。
ただし、民法770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、1号から4号までのような具体的な規定ではなく総合的な判断になりますので、DVがあったからといって直ちに離婚事由に該当するというわけではなく、別居期間なども踏まえて判断することになるという点に注意が必要です。
2、有責配偶者が受ける制限
有責配偶者に該当した場合には、離婚にあたって以下のような制限を受けることになります。
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(1)有責配偶者からの離婚は原則として認められない
自分自身が離婚事由に該当する行為をして婚姻関係を破綻させたにもかかわらず、有責配偶者からの離婚を認めることは信義誠実の原則に反することになります。そのため、有責配偶者による離婚請求は、原則として認められていません。
もっとも、有責配偶者であっても、以下の事情を考慮して信義誠実の原則に反しないと認めらえる場合には、例外的に離婚請求が認められることがあります。- ① 夫婦の別居が不負の期間および同居期間との対比において相当の長期間及んでいること
- ② 夫婦間に未成熟子が存在しないこと
- ③ 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれないこと
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(2)有責配偶者に対しては慰謝料請求が可能
配偶者の有責行為が不法行為に該当する場合には、それによって被った精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができます。
有責配偶者は、他方の配偶者に対して慰謝料を支払ったとしても有責配偶者からの離婚請求が認められるわけではありませんので注意しましょう。 -
(3)親権者への影響はケース・バイ・ケース
離婚原因となる行為をした有責配偶者に対しては、子どもの親権を渡したくないと考えるでしょう。しかし、親権者をどちらに指定するかについて、「子の利益」を中心に考えることになります。その際には、双方の監護能力、従前の監護状況、子どもの意向などが考慮されることになりますが、有責配偶者であるということだけで親権者の適格性が直ちに否定されるというわけではありません。
たとえば、夫が妻や子どもに対して暴力を振るっていたという事情があれば、親権者としてはふさわしくないとの判断がなされる可能性が高いですが、不倫をしていたという事情自体は子の監護とは無関係な事情です。このように、有責配偶者かどうかということではなく、有責性を基礎づける個別事情を踏まえて親権者として適格かどうかが判断されることになります。
3、有責配偶者に財産分与の権利はあるか?
有責配偶者から財産分与を求められた場合に、有責性があるからという理由で財産分与請求を拒むことはできるのでしょうか。
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(1)財産分与とは
財産分与とは、夫婦が離婚をする際に、婚姻生活中に夫婦が築いた財産を清算する制度のことをいいます。財産分与には、①清算的要素、②扶養的要素、③慰謝料的要素が含まれていますが、清算的要素が財産分与の中心的要素となります。
財産分与は、夫婦の資産形成・維持に対する貢献度に応じて財産を分ける制度ですが、夫婦の資産形成・維持に対する貢献度は基本的には等しいものと考えられています。そのため、財産分与をする際の財産分与割合は、2分の1となるのが原則です。 -
(2)有責配偶者でも財産分与の権利はある
では、有責配偶者であっても財産分与を請求する権利はあるのでしょうか。
財産分与の制度は、夫婦の財産を清算する制度ですので、夫婦のどちらに離婚の原因があるかは財産分与にあたって考慮すべき事情ではありません。そのため、有責配偶者からの財産分与請求も認められることになります。
そして、有責性と財産形成・維持への貢献度は、無関係な事情ですので、有責配偶者であっても原則として2分の1の割合で財産分与を求めることができます。
もっとも、協議離婚をする場合には、どのような内容の財産分与とするかについて夫婦が自由に決めることができます。そのため、有責配偶者の財産分与を認めない、有責配偶者の財産分与割合を2分の1以下にするといった取り決めをすることも可能です。 -
(3)住宅ローンがある場合の注意点
財産分与にあたって、住宅ローンが残っている自宅がある場合には注意が必要です。たとえば、有責配偶者の夫が自宅と住宅ローンの名義人となっている場合に、有責配偶者が自宅を出ていき、妻と子どもが引き続き自宅に居住するという取り決めをすることがあります。
しかし、住宅ローンを借りた金融機関との間の契約では、自宅の所有者や居住者を変更する際には、あらかじめ金融機関の承諾を得ることが条件となっていることが一般的です。金融機関の承諾を得ることなく名義変更などを行ってしまうと、最悪のケースでは住宅ローンの一括返済を求められることもありますので注意しましょう。
4、有責配偶者に慰謝料請求する際の注意点
有責配偶者に対しては、慰謝料を請求することが可能ですが、慰謝料請求する際には、以下の点に注意が必要です。
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(1)有責性を立証する証拠が必要
有責配偶者が自らの有責性を認めている場合には特に問題はありませんが、多くのケースでは、自分に不利な事情については否定することがあります。そのような場合に慰謝料を請求するには、慰謝料を請求する側で、配偶者に有責性があることを立証しなければなりません。証拠がなければたとえ裁判をしたとしても慰謝料請求を認めてもらうことができません。
配偶者が有責性を否定したときに備えてあらかじめ十分な証拠を確保してから慰謝料を請求するようにしましょう。 -
(2)財産分与と慰謝料
財産分与には、清算的要素の他に慰謝料的要素も含まれています。財産分与の際に、有責行為をしたことに対する慰謝料を含めて多めに財産分与がなされた場合には、慰謝料を請求する際に財産分与の慰謝料部分が減額されてしまうリスクもあります。
財産分与をする際には、慰謝料的要素を含むかどうか、含むとしてその金額はいくらかなどを明確にしておかなければ慰謝料請求にあたってトラブルになるおそれもありますので注意しましょう。
5、有責配偶者の財産分与に悩んだら弁護士に相談を
有責配偶者から財産分与を請求されたとしても、有責性を理由として拒むことはできません。しかし、財産分与の対象財産の選定や評価などを適切に行うことによって、最終的に手元に残すことができる財産をしっかりと確保することができる場合があります。
特に、有責配偶者との離婚にあたっては、証拠によって有責性を立証することで慰謝料を請求することが可能です。離婚後に経済的に不安なく再出発をするためには、適切な離婚条件で離婚をすることが重要となります。そのためには、有責配偶者との離婚に詳しい弁護士のサポートが必要です。
弁護士に依頼をすることで、財産分与だけでなく、適正な慰謝料、養育費など離婚に関するさまざまな問題を解決に導いてくれます。まずは、信頼できる弁護士に相談をすることをおすすめします。
6、まとめ
有責配偶者に対して離婚を請求する場合には、法律上の離婚原因があることから、有責性が明確であれば離婚自体で揉めることは少ないといえます。しかし、その場合でも、親権、養育費、慰謝料、財産分与などの離婚条件で揉めることは多いため、弁護士のサポートを受けながら進めていくことが必要になります。
有責配偶者との離婚をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスまでお気軽にご相談ください。
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