薬機法(旧薬事法)とは? 広告規制の概要・違反の罰則・課徴金などを解説
- 一般企業法務
- 薬機法
- 違反
- 罰則
2020年7月、大阪府警は、サプリメントに関する広告を取り扱う代理店の社長らを、薬機法上の広告規制違反を理由に逮捕しました。
医薬品などの販売を手掛けるEC業者にとっては、薬機法による規制の問題を避けて通ることはできません。もし広告規制に違反した場合、会社の代表者を中心とした幹部が逮捕されるおそれがあります。
さらに、今後2021年8月に改正法が施行されると、会社に対しても高額の課徴金が課される可能性があります。そのため、医薬品などの販売事業を行う際には、広告の方法などについて、薬機法上の問題がないかを事前によく確認することが大切です。必要に応じて弁護士に相談のうえ、薬機法違反の有無について入念なチェック体制を整えておきたいところです。
この記事では、広告規制を中心とした薬機法上の規制内容や、広告規制違反に対する罰則・課徴金の内容などについて、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、薬機法(旧薬事法)とは?
薬機法は、正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律」といいます。
以前は“薬事法”と略称されていましたが、2014年施行の改正法により、医療機器などが新たに規制対象に含まれたことから、“薬機法”と略称が改められました。
まずは、薬機法の目的と、主な規制内容の全体像を把握しておきましょう。
-
(1)医薬品などの製造・販売などを規制する法律
薬機法は、以下の製品の品質・有効性・安全性を確保し、これらの使用による保健衛生上の危害の発生・拡大を防止するために、各種の規制を設けています。
- 医薬品
- 医薬部外品
- 化粧品
- 医療機器
- 再生医療等製品
これらの製品(医薬品等)は、人体に直接作用するものであるため、健康被害を引き起こしやすい側面があります。また、医薬品等は専門性が高い製品であるため、事業者と消費者の間の情報格差が大きいのも特徴です。
そのため、科学的な効果がない医薬品等を巧みな広告によって売りつけ、事業者が消費者を搾取するという構図が発生するリスクが高いと考えられます。
そこで薬機法は、医薬品等の製造・販売等について厳格なルールを設け、事業者に対して遵守を義務付けることで、保健衛生を向上させることを目的としているのです。 -
(2)薬機法の主な規制内容
薬機法の主な規制内容は、以下のとおりです。
① 参入規制・行為規制
以下の事業を行う場合には、薬機法に基づき、都道府県知事や厚生労働大臣の許可または登録を受ける必要があります。<許可制>- 薬局の開設(薬機法第4条第1項)
- 医薬品、医薬部外品、化粧品の製造販売業(同法第12条第1項)
- 医薬品、医薬部外品、化粧品の製造業(同法第13条第1項)
- 医療機器、体外診断用医薬品の製造販売業(同法第23条の2第1項)
- 再生医療等製品の製造販売業および製造業(同法第23条の20第1項)
- 再生医療等製品の製造業(同法第23条の22第1項)
- 医薬品の販売業(同法第24条第1項)
- 高度管理医療機器等の販売業および貸与業(同法第39条第1項)
- 医療機器の修理業(同法第40条の2第1項)
- 再生医療等製品の販売業(同法第40条の5第1項)
<登録制>- 医療機器、体外診断用医薬品の製造業(同法第23条の2の3第1項)
さらに、これらの許可制・登録制の対象となっている事業者については、営業に当たって遵守すべき各種の行為規制が設けられています。
② 医薬品等の取り扱いに関する規制
主に医薬品等を販売する際の取り扱いに関して、製品表示の記載事項や記載方法・貯蔵・陳列などについての規制が設けられています(同法第44条~第65条の6)。
③ 広告規制
次の項目で解説します。
2、EC業者が注意したい薬機法上の広告規制について
医薬品等のインターネット販売を手掛けるEC業者は、薬機法上の広告規制について特に注意する必要があります。
消費者は、販売業者が提供する情報を信頼して医薬品等を購入しますので、広告の内容は公正なものでなければなりません。特に医薬品等の場合、人体への影響が大きいものが多いため、特に厳しい広告規制が設けられているのです。
薬機法上の広告規制は、以下の3つの項目に分類されます。
-
(1)誇大広告等の禁止
医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品については、その名称・製造方法・効能・効果・性能に関して、虚偽または誇大な広告を行ってはならないとされています(薬機法第66条第1項)。
たとえば、医薬品の効用をアピールする場合も、客観的事実や科学的根拠に基づいて証明できる範囲内で言及できるにとどまるのです。
また、 「医師が保証!糖尿病が絶対に治る薬」など、医師その他のものが医薬品等の効能・効果・性能を保証したと誤解されるおそれがある表現は、誇大広告に該当します(同条第2項)。
さらに、医薬品等に関して堕胎を暗示し、またはわいせつにあたる文書・図画を用いることも禁止されています(同条第3項)。 -
(2)がんなどの特定疾病用の医薬品等に関する広告の制限
以下の特定疾病に使用されることが目的とされている医薬品・再生医療等製品のうち、医師または歯科医師の指導の下で使用されなければ危険が大きいものについては、医薬関係者以外の一般向けの広告が禁止されています(薬機法第67条第1項、薬機法施行令第64条、薬機法施行規則第228条の10第1項、第2項)。
- がん
- 肉腫
- 白血病
-
(3)未承認医薬品等に関する広告の禁止
薬機法に基づく承認・認証を受けていない医薬品・医療機器・再生医療等製品については、その名称・製造方法・効能・効果・性能に関して、一切の広告を行うことが禁止されています(薬機法第68条)。
3、薬機法上の広告規制に違反した場合の罰則と課徴金
薬機法上の広告規制違反は犯罪に該当し、関係者(社長など)や会社が刑事罰の対象になる可能性があるため、十分に注意しなければなりません。
また、2021年8月1日には改正薬機法の施行が予定されており、その際に広告規制に対する課徴金制度が新設されます。これまで以上に広告規制に留意することが大切になるでしょう。
-
(1)広告規制違反に対する罰則(刑事罰)
広告規制違反を犯した者に対して科される刑事罰は、以下のとおりです。
① 誇大広告等の禁止
2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、または併科(薬機法第85条第4号)
② がんなどの特定疾病用の医薬品等に関する広告の制限
1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、または併科(同法第86条第1項第17号)
③ 未承認医薬品等に関する広告の禁止
2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、または併科(同法第85条第5号)
なお、法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者が、法人の業務に関し上記の違反行為をした場合には、上記と同様の罰金刑が法人に対しても科される可能性があります(両罰規定。同法第90条第2号)。
-
(2)広告規制違反に対する課徴金
2021年8月1日以降は、薬機法改正により、誇大広告・虚偽広告の禁止(薬機法第66条第1項)に違反した者に対して「課徴金」の納付が義務付けられます(改正薬機法第75条の5の2)。
課徴金とは、刑事罰としての罰金とは異なる、行政上の制裁金として位置づけられます。誇大広告・虚偽広告によって不正に得た利益を吐き出させることに、課徴金の主な目的があります。
課徴金の金額は、誇大広告・虚偽広告をしていた期間における医薬品等の対価(売り上げ)の4.5%です(同条第1項、第2項)。すでに課徴金制度が導入されている景表法は、売上高の3%が課徴金額ですが、改正薬機法では、それを上回る課徴金となります。
ただし、以下のいずれかに該当する場合には、課徴金納付命令が行われません。- ① 業務改善命令等の処分をする場合で、保健衛生上の危害の発生・拡大への影響が軽微な場合など(同条第3項)
- ② 課徴金額が225万円未満(対象品目の売り上げ5000万円未満)の場合(同条第4項)
4、薬機法上の広告規制遵守に不安がある場合は弁護士に相談を
薬機法上の広告規制(特に誇大広告・虚偽広告に関する規制)は、医薬品等の販売者に対して、セールストークに用いることができる表現に大幅な制限を加えるものです。
このくらいは良いだろう、などと考えていると、知らないうちに薬機法の広告規制に違反しているという事態が生じかねません。そのため、医薬品等の広告表現については、必ず弁護士などの専門家によるチェックを受けることをおすすめします。
弁護士に相談すれば、薬機法に抵触する可能性のある表現の指摘・修正を受けられるので、刑事罰や課徴金のリスクを回避することが可能です。
ベリーベスト法律事務所には、卸売り小売りはもちろん、インターネット事業も含めた流通業界のための専門チームがございます。広告に関するリーガルチェックをはじめさまざまなサービスをご提供していますので、ぜひお気軽にご相談ください。
5、まとめ
薬機法では、医薬品等の製造・販売などに関するさまざまな規制が設けられています。その中でも、医薬品等のインターネット販売等を行うEC業者にとっては、広告規制を遵守することが極めて大切です。
広告規制の内容を正しく認識していないと、セールストークの中で知らないうちに薬機法に違反し、刑事罰や課徴金が科されてしまうおそれがあるので、弁護士に相談して慎重に対応することをおすすめいたします。
薬機法上の広告規制について不安がある事業者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています