社員を穏便に辞めさせたい! 解雇の条件やトラブル回避の方法を解説
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2019年某日、JR西日本は、金銭の着服を行ったとして契約社員を懲戒解雇しました。もしも雇った社員が問題行動を起こしたとき、会社はどのような対処をすべきなのでしょうか。
日本では労働基準法により労働者の働く権利がしっかりと守られているため、解雇規制が比較的厳しい国だといわれています。しかし、明らかに会社へ不利益を与えた社員へは、厳正な処置を行うべきです。そこで今回は、社員を解雇するための条件や穏便に辞めさせるための退職勧奨のポイントなどを、岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、解雇にはどんな種類があるか
問題社員を辞めさせるためには解雇という方法があります。解雇とは労働者の同意を必要とせず、使用者(雇用主のこと)の一方的な意思表示で雇用契約を終了することです。
解雇は主に3種類に分類されます。まずはどのような種類があるのか知りましょう。
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(1)普通解雇
社員の問題行動等を理由に解雇することを普通解雇と言います。法律上、問題行動とは何かが定められているわけではありませんが、一般的には以下のようなケースが該当するでしょう。
- 職務を行う能力が著しく低い
- 会社の風紀を乱す行動が多い
- 極端に常識がなく、協調性に欠ける
- 繰り返し注意しても、就業規則に従わない
しかし、上記のような場合でも、労働者の権利を守るため、会社は問題社員の行動を改善するよう努力を求められます。解雇するためには、客観的合理性と社会的相当性が認められ有効といえる状態でなくてはなりません。もしこの基準を満たさずに解雇を行い、裁判で有効性を問われると、敗訴のリスクが高くなるでしょう。
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(2)懲戒解雇
問題行動をいさめる、または配置転換やなどを行う、などをしても改善がみられない場合、懲戒解雇の検討に進むことになります。
懲戒解雇のルールは各社の就業規則によって異なりますが、主に以下の条件に該当するケースが多いでしょう。- パワハラ・セクハラが悪質または常習性がある
- 会社に対する背任罪を犯した
- 会社の資産を横領した
- 長期にわたる無断欠勤
ただし、懲戒解雇は、即日解雇、解雇予告なし、解雇予告手当なしなど、労働者にとって大変厳しい処罰です。実行する際には相当の事由と証拠が必要となることを覚えておきましょう。
なお、公務員は懲戒解雇ではなく、懲戒免職(ちょうかいめんしょく)と呼ばれます。 -
(3)整理解雇
整理解雇とは人員の削減をするための解雇であり、いわゆるリストラです。整理解雇が認められるときは人選の妥当さが問われるので、問題行動をしていた社員を優先的に解雇できるでしょう。整理解雇するには、4つの条件を満たさなくてはなりません。
- 整理解雇以外に、会社を立て直す方法がない
- 解雇回避の努力
- 解雇される人選の合理性
- 解雇者の納得をえるための手続きの正当性
これらすべてを満たさないと、整理解雇は無効とみなされます。
2、解雇の条件を満たすことは困難?
会社に対して不利益を起こされた場合、雇用主としてはすぐにでも解雇したいところでしょう。しかし労働者の立場は労働基準法によって守られています。
以下より、正当な解雇に必要な条件を詳しく見ていきましょう。
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(1)解雇権の濫用は厳しく見られる
解雇の際に、十分配慮しなければならないのは、解雇権の濫用による不当解雇です。
労働契約法第16条では客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする
としています。
この規定の難しいところは、問題社員が「解雇という選択を余儀なくされるほど問題なのかどうか」を厳しく判断されることです。もし、解雇に該当するほどではないと裁判所が判断すれば、不当解雇となり、出社させなかった期間は未払い賃金を支払うことになります。また、あわせて不当解雇の慰謝料を請求されるケースもあるでしょう。
正当な解雇であるか迷ったら、弁護士等に相談することでリスクを回避できます。 -
(2)解雇回避努力が必要
会社が解雇回避のための努力をした、という形跡がなければ解雇は認められません。
回避の努力とは、問題社員への注意や教育のための研修、トレーニングなどです。また、より適していると思われる配置転換なども回避の努力にあたるでしょう。
このような解雇を回避する努力を一定期間行っても、改善の余地がない場合は解雇を検討する余地があります。 -
(3)「態度が気に入らない」は解雇理由にならない
ここで「問題社員」という言葉について今一度考えてみましょう。問題社員とは問題を起こして会社や取引先に迷惑をかけている、と雇用主から思われている社員のことです。しかし労働者の視点で見たとき、一概に問題社員とはいえないケースもあります。
- 会社の都合にあわせず、有給休暇を申請する
- 自分の仕事が終わったからと残業せずに帰る
- 産休や育休をとる
- 会社が強制する不当行為に加担しない
有給休暇の取得やワークライフバランスへの取り組みは、不当な行為にはあたりません。たとえ雇用主の意にそぐわなくても、退職に追い込むことは不当解雇となります。
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(4)有期雇用の雇い止めが難しいケースもある
有期雇用の社員であれば契約満了で雇い止めすればよいと考えがちですが、必ずしもそうと限りません。5年以上勤務している有期雇用の社員は、一定の要件を満たした場合、社員からの申し込みにより無期雇用になります。また、長期的な雇用を期待させるような言動を重ねていたり、書面に残していたりする場合は、解雇と同じ、厳しい条件が必要になることもあります。
有期雇用の社員の雇い止めについて迷ったら、労働問題に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。
3、穏便に辞めてもらうために必要なこと
解雇は会社が問題を解決するための最終手段です。
それでは、穏便に社員を辞めさせるためにはどうすればよいのでしょうか? 重要なポイントは、正しい手続きをふみながら進めていくことです。
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(1)まずは解雇回避努力をする
繰り返しになりますが、社員を辞めさせる前に解雇回避努力を行うことは必須です。
また、改善するために実施した内容は、全て書面に残しておきます。法的トラブルになったときに備え、客観的な証拠を残すようにしましょう。 -
(2)退職勧奨をする
解雇を回避するための努力をしても改善が認められない場合、自主退職を促す退職勧奨に進みます。
処遇の結果として改善が認められないことの説明、また、他の場所の方が活躍できる可能性があることなど未来が描けるように話すことで、労働者の納得を得られる可能性が高まります。
また、退職勧奨する際には、パワハラや脅迫とみなされないように対応することも重要です。
問題社員からの納得を得にくいと事前に予想できる場合は、弁護士など第三者の同席も有効です。労働問題の交渉にたけた弁護士が話し合いに加わることで、相互の理解を深められる可能性が高まります。また、書面等で合意にいたる経過を残すことで、後日、不当解雇を主張された場合にも有利な対応をとることができるでしょう。
4、まとめ
一方的な解雇は大変難しく、裁判になると労働者の権利が守られるケースも少なくありません。そのため問題社員がいても「どこからが不当解雇なのか」「無理やり辞めさせてあらぬ行動を起こされないだろうか」と悩む人事や労務の担当者は少なくないでしょう。
穏便に辞めてもらうには、正しい手順をふむことが大切です。ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスには、法務や労働問題の経験豊富な弁護士が在籍しています。まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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