武器を製造したら逮捕される? 事例と逮捕後の流れ

2022年12月01日
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武器を製造したら逮捕される? 事例と逮捕後の流れ

「武器の製造」といえば、きわめて特殊な技術であり、まるでフィクションの世界の出来事のようにも聞こえるかもしれません。しかし、令和4年の元首相の銃撃事件では、インターネット上の情報などをもとに製造した自作銃が使用されました。

通常なら公開されていない銃製造のノウハウが、インターネットを通じて誰でも入手できるようになったうえに、3Dプリンターの普及なども手伝って、一般の方でも武器を製造できる環境が整っています。

しかし、気軽に武器製造に手を染めてはいけません。本コラムでは、武器製造で問われる罪や逮捕の危険性、逮捕されてしまった場合の刑事手続きの流れや違法な武器を製造してしまった場合の解決策などを、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。

1、武器を製造する行為で問われる罪

戦争や内紛が身近ではない日本人にとって「武器」は縁遠く感じるものかもしれませんが、社会には業務上の理由で武器が欠かせない人が存在しています。だからといって「必要だから」「必要としている人に売ると儲かるから」という理由だけで武器の製造や所持・携帯を無制限に許していると、社会に武器がまん延してしまうでしょう。

そこで、武器の製造や製造された武器の所持・携帯などは、すべて法律による規制を受けています。

  1. (1)「武器等製造法」の違反にあたる

    武器の製造について規制しているのは「武器等製造法」です。武器や猟銃などが規制の対象で、製造や販売の取り扱いを規制することで公共の安全を確保しつつ、武器の製造事業を調整することで経済の健全な運行を図っています。

    この法律で「武器」として定義されているのは、銃砲や銃砲の弾丸、爆発物などです。猟銃・捕鯨銃・もり銃・と殺銃・空気銃は「猟銃等」と定義され、やはり規制対象に含まれています。

    同法第3条には「武器の製造」事業を行う場合には経済産業大臣の許可を受けなければならないと定めており、さらに第4条には「武器の製造は、前条の許可を受けた者でなければ、行ってはならない」と定めています。つまり武器の製造が許されるのは許可を受けた事業者だけであり、無許可の事業者はもちろん、そもそも個人の武器製造は違法です。

    武器製造の許可には、設備の基準や保管設備の要件、事業を的確に遂行できる経済的な基礎といった厳しい条件をクリアしなければならないので、容易に許可を得られるものではありません。「猟銃等」の場合も同様で、都道府県知事の許可が必要です。もちろん、個人の製造は違法になります。

    無許可で武器を製造した場合の罰則は、銃砲の場合は「3年以上の有期懲役」です。最低でも3年は刑務所に収監されてしまい、判決が懲役3年を超えてしまうと執行猶予もつきません。

    また、第三者に売り渡すなどの営利目的で銃砲を製造すると「無期もしくは5年以上の有期懲役」または「無期もしくは5年以上の有期懲役および3000万円以下の罰金」が科せられます。
    実刑判決の可能性が高いだけでなく、多額の罰金も徴収されてしまう重罪です。

  2. (2)自作銃や弾を所持していると「銃刀法」の違反にもなる

    違法に武器を製造するということは、第三者に売ったり譲ったりしない限り「武器や弾丸を『所持』する」ことへとつながります。正当な理由のない武器の所持は「銃砲刀剣類所持等取締法(通称:銃刀法)」の規制対象です。

    同法第3条には、誰であっても法に定められた除外事由なく、銃砲などを所持してはならないと明記されています。
    ここでいう「所持」とは、現実に手に持ったりカバンなどに入れていたりする「携帯」だけでなく、自宅や倉庫、車のトランクなど、自分が管理している場所に保管していたり、家族・恋人・友人などに預けたりする行為も含むと考えるのが定説です。

    この規定に違反して「拳銃等」を所持すると、銃刀法第31条の3第1項の規定によって、1年以上10年以下の懲役が科せられます。

    また、2丁以上の複数の拳銃等を所持していた場合は、1年以上15年以下の懲役へと加重されます。
    さらに、その拳銃等に適合する弾丸や火薬を同時に携帯していると同条第2項の「加重所持」となり、3年以上の有期懲役が科せられます。

    それだけではありません。自作銃でも、法定の除外事由なく発射すれば、同法第31条の11第3項の規定によって5年以下の懲役または100万円以下の罰金、拳銃から発射できる弾丸を所持していれば、同法第31条の8により5年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられます。

    銃刀法は、銃砲に関してあらゆる行為を厳しく規制しているので、銃を違法に製造すれば、銃刀法にも違反します

    なお、武器等製造法違反と銃刀法違反は、それぞれ違う法律ですので、別の違法として扱われます。
    各行為についての罰則にも触れてきましたが、実際にはさらに厳しい刑罰が待ち構えていると心得ておくべきです。

2、3Dプリンターで銃を製造し、逮捕された裁判例

武器製造が容易になっている背景として無視できないのが「3Dプリンター」の存在です。パソコンなどで作成した設計データをもとに立体モデルを製造できる機械で、いまや各分野の製造部門では欠かせないものになっています。

しかし、設計データさえあれば「何でも立体モデルが製造できてしまう」という問題も抱えており、これまでにも「女性器をかたどったわいせつ物」の製造などで、話題になったことがありました。
そして、3Dプリンターを用いて武器を製造し、逮捕されて有罪判決を受けた実例も存在しています。

平成26年に起きた事例では、3Dプリンターを使って樹脂製の拳銃を製造した容疑で、大学職員だった男が逮捕されました。警察が家宅捜索を行ったところ、男の自宅から樹脂製の拳銃5丁が見つかり、そのうちの2丁が「殺傷能力あり」とされたそうです。

起訴された罪名は、武器等製造法違反・銃刀法違反でした。3Dプリンターを使って武器を製造したことに加えて、正当な理由なく自宅で拳銃を所持した容疑です。

刑事裁判では「簡単に改造できるモデルガンが公然と販売されているのだから、3Dプリンターで自作することも問題はないと考えていた」などと主張しましたが、裁判官はこれを認めませんでした。
ただし、一定の殺傷能力は認められるものの、発射性能の実験では1回の試射にも耐えきれない程度の耐久性しかなく、しかも正規の弾丸は使えないので弾丸も自作しなければ発射できないところ、弾丸を製造した事実もなかったことから、危険性はさほど高くないという評価を受けています。

それでも、この事例を通じて「3Dプリンターを使えば誰でも簡単に武器を製造できる」と知らしめたことや、製造当初から、製造過程をインターネットで公開することを意図していた点から、模倣性が高く悪質であるという結論に至り、一定の酌量を受けながらも懲役2年の実刑判決が言い渡されました。【平成26年10月20日 横浜地裁 平成26(わ)670】

3、武器製造の容疑で逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ

武器製造の容疑で逮捕されると、その後はどうなってしまうのでしょうか?
刑事手続きの流れについて、順を追ってみていきましょう。

  1. (1)逮捕による72時間以内の身柄拘束

    警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内の身柄拘束を受けます。警察官による取り調べを受けたのち、検察官へと身柄が引き継がれ、そこでもさらに24時間以内の身柄拘束を受けるので、身柄拘束の上限は合計72時間です。

    この期間は、自宅へ帰ることも、家族や職場に連絡することも許されないだけでなく、弁護士以外の人との面会も一切許されないことが多いです。
    ほぼ完全に外部の社会から隔離された3日間が続きます。

  2. (2)勾留による最大20日間の身柄拘束

    検察官に事件が引き継がれることを「送致」といいます。ニュースなどでは「送検」とも呼ばれているので、耳にしたことがある方も多いはずです。

    事件送致を受けた検察官が「身柄拘束を継続したまま捜査を続ける必要がある」と判断した場合は「勾留」が請求されます。裁判官が審査してこれが許可されると、10日間の勾留が開始されます。

    勾留中は、検察官が指揮しながら警察が実質的な捜査を進めるので、被疑者は逮捕段階に引き続いて、拘置所や留置所で身体を拘束されます。

    10日間の勾留で捜査が終了しない場合は、検察官は一度に限り、裁判所に対し、10日以内の勾留延長を請求することができます。そのため、勾留の期間は「最大20日」です。

  3. (3)「再逮捕」されると再び72時間+20日間の身柄拘束を受ける

    武器製造は、武器等製造法違反とあわせて銃刀法違反についても追及を受ける危険が高い犯罪です複数の事件がある場合は「再逮捕」を想定したほうがよいかもしれません

    第1の事件の勾留が満期を迎えるタイミングで再逮捕されると、再逮捕の理由となった第2の事件について逮捕後の72時間+勾留の20日間という身柄拘束が繰り返されます。再逮捕の回数に法律上の制限はないので、同じ容疑を理由にしていない限りは事件の数だけ再逮捕が可能です。

    ただし、同時に処理できるはずなのにわざわざ各余罪を切り離していると「不当な身柄拘束」にあたる可能性が高くなるので、複数の事件が存在するケースでも再逮捕は2~3回程度になるでしょう。

  4. (4)起訴されると刑事裁判が開かれる

    勾留が満期を迎えるまでに捜査が終了すると、検察官が「起訴」または「不起訴」を判断します。
    起訴されると刑事裁判が開かれますが、不起訴になると刑事裁判は開かれないので、釈放です。

    なお、再逮捕されるケースでは、第1の事件について起訴・不起訴が判断されないまま「処分保留」というかたちでいったん釈放されることがあります。

    ただし、いったん釈放するといっても外に出たり一時帰宅できたりするケースは少ないです。むしろ、釈放後ただちに第2事件の逮捕状が示されて再逮捕される可能性が高いと言えます。

    つまり、処分保留で釈放といっても実質的には身柄拘束が解除されて自由になれるタイミングはほとんどありません。

4、武器を製造したら「自首」したほうがいい? 自分だけで決断せず弁護士に相談を

武器を製造してしまった場合、インターネット上の情報や聞き込みなどの捜査から、警察に逮捕されてしまうかもしれません。

厳しい刑罰も予定されているので、捜査の手がのびる前に「自首」による積極的な解決を図ったほうがよいケースも少なくありません。

  1. (1)「自首」の効果

    自首とは、ある事件について警察も検察も誰による犯行かを把握していないときに、犯人が自ら警察署・検察庁に出向いて犯人であることを告げ、処分を求める行為のことを指します。
    簡単にいえば、みずから「自分が犯人だ」と名乗り出ることだといえますが、すでに捜査機関が事件や犯人を認知・特定している場合に自首は成立せず「出頭」という扱いになります。

    自首が成立すると、刑法第42条1項2項の規定によって「減軽」を受けられるかもしれません。減軽とは、各犯罪に対して定められた法定刑について、上限・下限を減じたうえで実際に科せられる量刑を判断するものです。

    減軽が適用されることで、原則として執行猶予判決の対象外となる罪であっても、執行猶予判決を得られる可能性があります

    武器等製造法違反の場合は、自首をしても「減軽することができる」だけで、かならず減軽されるわけではありません。ただし、銃刀法違反については、銃刀法に「自首減免」の規定があるので、かならず減軽または免除されます。

  2. (2)自首の方法

    自首の方法は、刑事訴訟法第241条1項、245条において「書面または口頭」と定められています。法律の規定に含まれていないので、電話や電子メールでは自首が成立しないと考えられます。

    口頭による場合は、自首を受理した警察官等が事情を聞き取ったうえでで「自首調書」を作成します。書面による場合は自ら「自首申述書」などの書面を作成しますが、郵送では受理されない可能性もあるので、捜査機関に持ち込んで手渡しすべきです。

    このような点から、自首する場合は、自ら捜査機関の元に出向くのが、確実と思われます。

  3. (3)自首する前に弁護士に相談するべき理由

    武器を製造した旨を自首する際は、事前に弁護士に相談したほうが安全です。自首は法律によって定められた刑事手続きのひとつであり、単なる任意出頭とは厳格に区別されます。

    しかし、武器製造・所持に関する法律の規制内容や警察の捜査手法などについて詳しい知識をもたない個人では、現時点での出頭が自首にあたるのか、自首は成立しないのかを判断するのは難しいでしょう。

    自首として扱ってもらえない状況なら、逮捕を避けるための対策なども十分に尽くしたうえで行動を起こさなくてはなりません。

    また、本来は自首が成立する状況なのに捜査機関が適切に扱わず、任意出頭の扱いしか受けられないかもしれないという危険もあります。

    弁護士に相談すれば、自首するべきかどうかの判断についてアドバイスが得られるだけでなく、自首することになった経緯や事情をまとめた申述書の作成や、自首の際の警察署への同行も可能です
    弁護士が同行すれば、適切に自首が受理されるのか、不当な扱いを受けないかといった点を監視できるので、捜査機関へのけん制にもなるでしょう。

    また、自首が適切に受理されれば引き続き取り調べがおこなわれますが、同行した弁護士が庁舎内で待機することもできるので、取調官からの質問で受け答えに迷ったときはすぐに相談してアドバイスが得られます。

5、まとめ

武器の製造は法律によって厳しく規制されています。厳しい刑罰が予定されているうえに、製造した武器を保管しているだけでも別の法律違反となるので、結果として非常に厳しい刑罰が科せられる事態は避けられないでしょう。

武器製造・所持の容疑で実刑判決を受けた事例もあるので、法律の規制を知らずに武器を製造してしまったなら、自首を含めて積極的な解決を図ったほうが賢明です。

武器製造に関してみずから解決を図り逮捕や厳しい刑罰を避けたいと考えるなら、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスにご相談ください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています