内縁の配偶者に親族相盗例は適用されない? 刑罰に問われる?
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「窃盗罪」は市民生活にもっとも身近な犯罪です。空き巣、万引き、置き引き、自転車の盗難など、窃盗事件の事例を挙げれば身近にあふれていてきりがありません。数ある犯罪のなかでもめずらしくないのが窃盗罪ですが、実は窃盗罪には対象となる犯罪がごく少数に限られたある特例があります。
それが刑法第244条1項の「親族相盗例」です。これは親族間における犯罪を免除するという特例ですが、ここで注目すべきは「親族」の範囲です。
特に、様々な事情よって入籍していない内縁の配偶者にとっては、法律上の親族と同じように本特例が適用されるのか気になるところでしょう。
本コラムでは「親族相盗例」が内縁の配偶者にも適用されるのか、容疑をかけられると逮捕されるおそれがあるのかといった疑問に答えていきます。
1、内縁の配偶者は親族相盗例の適用をうけるのか
法律上婚姻の届け出をしていない、内縁関係にある配偶者は親族相盗例の範囲に含まれるのでしょうか?
この点については、すでに平成18年の裁判で裁判所が答えを示しています。
内縁の配偶者について親族相盗例の適用を争ったのは、平成18年8月30日、最高裁判所第二小法廷において開かれた上告審です。
裁判所が下した判断をまとめると、次のような考え方になります。
- 親族相盗例は、かならず刑罰が免除される「必要的免除」の規定なので、その対象範囲は明確に定めなければならない
- 内縁の配偶者は法律上の「親族」にあたらないし、その関係から親族と同等だと類推して適用するのは間違いである
このような考え方から、内縁の配偶者には親族相盗例が適用されないと決定を下しています。
したがって、内縁の配偶者は、(たとえ事実婚や同棲など呼び名が違っても)親族相盗例は適用されません。
2、「親族相盗例」が適用される犯罪・範囲を確認
内縁の配偶者に親族相盗例が適用されないことは、すでに最高裁判所が結論づけています。
では、どのような関係性にあれば親族相盗例が適用されるのでしょうか。親族相盗例が適用される犯罪の種類や範囲を確認していきます。
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(1)親族相盗例が適用される犯罪の種類
親族相盗例は刑法第244条1項、刑法第251条及び255条に定められた特例で、対象を次の犯罪に限定しています。
- 窃盗罪(刑法第235条)
- 不動産侵奪罪(同第235条の2)
- 詐欺罪(同第246条)
- 電子計算機使用詐欺罪(同第246条の2)
- 背任罪(同第247条)
- 準詐欺罪(同第248条)
- 恐喝罪(同第249条)
- 横領罪(同第252条)
- 業務上横領罪(同第253条)
- 遺失物等横領罪(同第254条)
親族相盗例が適用される犯罪は、金品を盗んだり、だまし取ったり、着服したりといった「財産犯」に限られています。
暴行罪や傷害罪といった粗暴犯、強制わいせつ罪や強制性交等罪といったわいせつ犯などには適用されません。 -
(2)親族に含まれる範囲
親族相盗例の適用を受けるのは、被害者からみて次の関係にある者に限られます。
- 配偶者
- 直系血族
- 同居の親族
配偶者とは、婚姻届が受理されて法律上の夫婦となった相手を指します。
内縁・事実婚・同棲などのほか、すでに婚姻を解消している元配偶者は含まれません。ドメスティックバイオレンス、いわゆる「DV」やストーカーなどでは、被害者を守る意味で配偶者の範囲が柔軟に解釈されていますが、ここでは厳密に判断されるという点には注意が必要です。
直系血族とは、世代が上下に直接的に連なる血縁者を指します。本人を中心に、祖父母・父母・子・孫が直系血族です。なお、兄弟姉妹は直系ではなく「傍系(ぼうけい)」の血族になります。
同居の親族とは、直系血族除く6親等以内の血族、または姻族(配偶者の血族や、血族の配偶者)のうち3親等以内の者で、実際に同居している人です。
以上から、兄弟姉妹、配偶者の両親、叔父や叔母などが同居している場合は親族相盗例が適用されます。
3、内縁関係なら逮捕される危険もある
内縁の配偶者には親族相盗例が適用されないなら、内縁関係の間で窃盗を犯すと逮捕される危険があるのかという疑問も生じます。
法律上の夫婦には当たらないとしても、ひとつの家庭内で起きた窃盗で逮捕するというのは大げさに感じる方もいるかも知れません。内縁関係にある二人の間で起こった窃盗で逮捕されることはあるのでしょうか。
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(1)罪を免れられない以上は逮捕の危険がある
法律の定めや裁判所の判断に照らすと、たとえ夫婦同然の関係だとしても内縁の配偶者には親族相盗例が適用されません。
すると、捜査機関が「逃亡や証拠隠滅を図るおそれがある」と判断した場合、罪を免れられない以上は逮捕の危険があることは否定できません。
親族相盗例には、配偶者・直系血族・同居の親族を除いた親族の間では「告訴」が必要となるという規定もあります(刑法第244条2項)。告訴は厳格な刑事手続きなので、わざわざ面倒な手続きを経てまで処罰は求めないという被害者も少なくありません。
しかし、内縁の配偶者はこれらの親族にも含まれないので、告訴がなくても逮捕の危険があると心得ておきましょう。 -
(2)窃盗罪で逮捕される割合
冒頭で紹介した事例のように、窃盗容疑で逮捕される事件がニュースなどで報じられるのは決してめずらしくないので「窃盗事件を起こせば逮捕される」と考えている方も多いはずです。
令和3年版の犯罪白書によると、令和2年中に検察庁が処理した窃盗事件のうち、被疑者の逮捕を伴う身柄事件の割合は30.0%でした。
この数字は、警察が捜査して検察庁へと引き継がれた事件だけを集計しているので、当事者間での話し合いで解決して警察に届け出はされなかったといった、被害がごく軽微であることを理由に警察が「微罪処分」とした数字は除外されています。
つまり、窃盗罪で逮捕される割合は30%よりも低いといえるでしょう。
特に、家庭内で起きた窃盗事件なら、逃亡や証拠隠滅の危険は低くなるので、まったくの他人が被害者となったケースと比較して、警察が「逮捕が必要だ」と判断する可能性は低いです。とはいえ、逮捕の危険が完全になくなるわけではないので、トラブルに発展したら素早い対応は欠かせません。
4、内縁関係で窃盗容疑をかけられたときにするべきこと
内縁関係で窃盗容疑をかけられてしまった場合は、どのように解決を図るべきなのでしょうか。
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(1)被害の回復が最優先
窃盗事件を穏便に解決するために第一に必要なのが「被害の回復」です。
窃盗罪は金品などの財産を対象とする犯罪なので、極端な言い方をすれば「被害を回復してしまえば実害は解消される」という側面があります。
被害品の返還や被害の相当額を賠償するといった被害回復を尽くせば、事件化を回避できる可能性が高まるでしょう。もし事件化されてしまったとしても、すでに被害回復が尽くされているという事情は容疑をかけられた人にとって有利な事情となります。 -
(2)示談交渉が難航するなら弁護士に相談
被害の回復や謝罪といった示談交渉が難航してしまった場合は、弁護士に相談しましょう。
生活をともにしている内縁関係にある人が相手であれば、話し合いによる解決は難しくないかもしれません。内縁の配偶者による窃盗が問題となるケースの多くは、関係の解消や深刻な衝突といったトラブルが背景にあるはずです。
親しい関係にあるからこそ、かえってトラブルが深刻化し、解決は難しくなり、当事者同士の話し合いでは解決できない事態にも発展してしまいます。
弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人となって、冷静な交渉をすること可能です。当事者同士の衝突を避けながら示談交渉を進められるので、穏便な解決が期待できます。
5、まとめ
窃盗罪は「親族相盗例」の適用を受ける犯罪ですが、内縁の配偶者は法律上の配偶者や親族にあたらないため、本特例の対象外です。被害者が被害届・刑事告訴に踏み切れば逮捕・刑罰を受ける危険があるので、素早い解決を図る必要があります。
内縁関係の間で起きた窃盗事件は、当事者同士による話し合いでは解決できないケースも少なくありません。事件化を回避しながら穏便な解決を図るためには、弁護士のサポートが必要となる場面も少なくないでしょう。
内縁関係の間で起きた窃盗事件の解決は、刑事事件の経験が豊富なベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスにおまかせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています