喧嘩の後で警察から呼び出しが! 暴行罪・傷害罪で逮捕の可能性は?
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平成29年5月には、岸和田市の路上で自身の叔父と口論になった無職の男が、叔父の頭を殴るなどの暴行を加え、通報を受けて駆けつけた警察官に現行犯逮捕される事件が起きています。
令和5年版の犯罪白書によると、刑法に定められている犯罪で逮捕されて、身柄を拘束された人の割合は全体で34.3%にのぼります。そのため、ささいな喧嘩でも「犯罪である」と判断されれば逮捕を受けるおそれがあることは否定できません。
このコラムでは、喧嘩が原因で罪に問われた場合に、どのような犯罪となって、どの程度の刑罰が科せられるのかを、警察に呼び出しを求められた場合の対処法とともにベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、喧嘩は犯罪になるのか?
友人・知人のような親しい関係や、家族のように血縁関係にある間柄でも、意見の対立や叱責が原因で喧嘩に発展してしまうことがあります。ただし、一言で「喧嘩」といっても、その内容によって大きく2つに分けられます。
ひとつは、意見や暴言を言い合う喧嘩です。「口論」と呼ばれるものですが、相手の生命・身体などの安全を脅かすような発言でない限り犯罪にはなりません。
もうひとつは、暴力を加える喧嘩です。こちらはどのような理由があったとしても犯罪になります。たとえ相手に非があったとしても、暴力を加えた側は犯罪の被疑者として刑事責任を問われる可能性があります。
ただし、実際に逮捕され、前科がつくかはケース・バイ・ケースです。暴力トラブルを起こしてしまった場合は、早めに刑事事件の実績がある弁護士へ相談してみることをおすすめします。
2、喧嘩に適用される犯罪と刑罰
「喧嘩」はどのような犯罪に該当するのでしょうか。ここでは、喧嘩に適用される犯罪と刑罰を確認します。
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(1)暴行罪
喧嘩相手に暴行を加えると、たとえ相手に怪我がなかったとしても刑法第208条の「暴行罪」が成立します。
ここでいう「暴行」とみなされる行為は「人の身体に向けた有形力の行使」です。殴る・蹴るといった典型的な暴力行為はもちろん、毛髪を引っ張る・襟首をつかむといった喧嘩の際にありがちな行為も暴行に含まれます。
また、過去の裁判例では、室内でブラスバンド用の太鼓を連打して相手をもうろうとさせたケース(最高裁昭和29年8月20日)、「帰れ、出ていけ」などの言葉とともに相手に塩を投げつけたケース(福岡高裁昭和46年10月11日)も暴行罪の成立が認められています。
このような例を挙げると、暴行罪が適用される行為の範囲は非常に広いため、自分では暴力を振るったという意識がなくても暴行罪に問われてしまうケースも少なくありません。
暴行罪の法定刑は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。1か月未満の自由刑である拘留や1万円未満の金銭刑である科料が規定されている点に注目すれば、比較的、刑罰の軽い犯罪であるといえます。 -
(2)傷害罪
喧嘩した相手に暴行を加え、相手が怪我をした場合は刑法第204条の「傷害罪」が成立します。傷害罪は「人の身体を傷害した者」を罰する犯罪で、法定刑では15年以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されています。
ここでいう傷害とは、人の生理機能や健康状態を害することを指すと考えるのが一般的で、出血を伴う傷や骨折などのほか、擦り傷や打撲傷といった軽度の負傷も含まれます。また、傷害罪が成立するには「故意」が必要です。
傷害罪における故意とは、暴行以外の行為による場合は相手が負傷するという結果を認識したうえで当該行為をすることを指しますが、暴行による場合は相手が負傷するという結果を認識している必要はなく、暴行する認識があれば足ります。
たとえば、口論が行き過ぎて相手がつかみかかってきたため、相手の手を振り払おうとしたところ誤って拳が顔面に当たって怪我を負わせてしまったなどのケースでは、傷害罪は成立しません。
例のように、意図せず相手を負傷させてしまった場合は、刑法第209条の「過失傷害罪」が成立するにとどまります。過失傷害罪の法定刑は30万円以下の罰金または科料であり、懲役・禁錮・拘留といった自由刑は設けられていません。 -
(3)そのほかの犯罪
喧嘩において成立し得る犯罪は暴行罪・傷害罪が柱となりますが、そのほかにも状況次第では以下のような犯罪が成立するおそれがあります。
- 器物損壊罪(刑法第261条) 他人の物を損壊した場合に成立する犯罪です。喧嘩相手の家財道具を壊した、窓ガラスを割った、ペットを殺傷したなどの行為があれば、器物損壊罪に問われる可能性があります。法定刑は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料です。
- 暴力行為等処罰法違反(第1条) 暴力行為等処罰法とは、正式には「暴力行為等処罰ニ関スル法律」といいます。反社会的な集団による暴力行為から家庭内のDVまで、特定の暴力行為を処罰するため規定を定めた法律です。
同法の第1条において「兇器を示したうえで暴行罪・脅迫罪・器物損壊罪の罪を犯した者」の刑罰を加重する旨が定められています。たとえば、喧嘩の際に刃物を持ち出し、相手に突きつけて「殺すぞ」と脅したなどの状況があれば、3年以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
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3、喧嘩の後日に警察から呼び出しを受けた!
喧嘩の当日は通報や被害届を出されなかったとしても、後日になって警察から呼び出しを受けることがあります。このように、ある日突然警察から「事情を聞かせてほしい」という電話がかかってきても、できるだけ冷静な対処が望まれます。
警察はどのような目的で呼び出しをするのか、その後に逮捕される可能性はあるのかを見ていきましょう。
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(1)呼び出しの目的は?
喧嘩の後日に警察からの呼び出しを受けたのであれば、喧嘩の相手が警察に被害を申告したものと考えられます。
ただし、警察の段階では、被害者が「暴力を振るわれて怪我をした」と自己申告をしても、喧嘩の事実があったのかは未確認の状態です。たとえ被害者が負傷していたとしても、一方的な申告のみでは喧嘩によって負った怪我なのかも定かではありません。
そこで、被害者の供述が真実であるのかを確認するために、加害者だと名指しをされた人物を呼び出して事実を確認するのです。 -
(2)逮捕の可能性はあるのか?
警察からの呼び出しを受けると「そのまま逮捕されるのではないか」と強く不安を感じる方も多いはずです。
怪我の程度が重大で、被害者が強い処罰意思をもっている場合は、呼び出しのうえで任意の取り調べをおこない、事実を確認したうえで逮捕状が請求されるというケースも少なからず存在します。
ただし、警察による捜査の方法や心構えを定めた「犯罪捜査規範」の第99条には「捜査は、なるべく任意捜査の方法によっておこなわなければならない」と示されています。
また、同規範の第100条では任意捜査をおこなう際に下記のような事項を定めています。
- 承諾を強制し、またはその疑いを受けるおそれのある態度もしくは方法をとらないこと
- 任意性を疑われることのないように、必要な配意をすること
つまり、任意の調査段階で強制的に連行されることはなく、罪を認めたらただちに逮捕されるというわけではありません。
令和元年版の犯罪白書で公開されているデータによると、検察庁が受理した傷害事件のうち、逮捕によって身柄拘束を受けた状態で送致されたのは1万1636人で、全体の10%でした。警察からの呼び出しを受けても、慌てずに認めるべき部分は素直に認めて供述すれば、逮捕の要件である「逃亡または証拠隠滅のおそれ」が否定される可能性が高くなるため、任意の在宅事件として処理されることも十分にあるでしょう。 -
(3)微罪処分の可能性もある
知人・親類などの間柄における喧嘩は、事実が単純で言い争う余地が少なく、被害程度も重大ではないケースが少なくありません。
このような場合、警察からの呼び出しを受けても、相手に怪我がない程度であれば「微罪処分」が採用される可能性があります。微罪処分を受けた場合は逮捕されず、検察庁への送致もおこなわれないので、刑罰を受けることはありません。
捜査機関側は同時に多数の事件処理を扱うため、微罪処分をはじめとした簡易化・合理化された手続きを適用できる内容の事件については積極的に適用する傾向があります。前科もなく、これまでに喧嘩などのトラブルを起こしたことがない、相手に怪我を負わせていない、凶器を使用していないなど被害程度が軽ければ、微罪処分が採用される可能性は高いでしょう。 -
(4)呼び出しに応じなかった場合
警察からの呼び出しは、正当な理由なく拒否してはいけません。「行きたくない」「悪いことはしていない」と開き直って呼び出しを無視していると、任意の取り調べでは事実が明らかにならないと判断される可能性があります。
素直に出頭すれば任意の在宅事件として処理されていたかもしれないケースでも、呼び出しに応じなかったばかりに逮捕されてしまうのは賢い選択とはいえないでしょう。警察署へ弁護士に付き添ってもらうことも可能です。不安な場合はまずは弁護士に相談してみることも検討しましょう。
4、呼び出しを受けたら弁護士へ相談を
喧嘩の後日に警察からの呼び出しを受けてしまい、どのような手続きになるのかに不安を感じているなら、まずは弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。
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(1)逮捕されてしまった場合の流れ
警察に逮捕されてしまうと、警察の取り調べで最長48時間まで、その後に送致が決定すれば検察官の取り調べで最長24時間まで、合計で72時間の身柄拘束を受けることになります。この期間は家族であっても接見(面会)は認められません。取り調べに対するアドバイスや、家族からのメッセージを伝えるなど、本人と接見ができるのは弁護士だけです。
さらに、検察官からの請求を裁判官が認めた場合は「勾留」によって原則10日間、延長を含めて最長20日間まで身柄拘束が延長される可能性があります。
勾留が満期を迎える日までに検察官が起訴すると、刑事裁判の手続きに移行します。刑事裁判には公開の裁判のほかにも、非公開のまま書類審理のみで進められる略式手続きがありますが、いずれの場合も審理が終結した後に判決が下され、刑罰が決まります。 -
(2)被害者との示談交渉が有効
喧嘩が刑事事件に発展してしまった場合は、早急に被害者との示談交渉を進めるのが賢明です。
被害者が警察に届け出をする前に示談が成立すれば、警察からの呼び出しや逮捕される事態を回避できます。
すでに警察が被害届や告訴を受理しており、捜査が進められている段階でも、示談が成立して被害届・告訴の取り下げがなされれば捜査は終結する可能性が高いです。
逮捕されてしまった場合でも、勾留が決定するまでの72時間以内に示談が成立すれば身柄拘束の必要がなくなるので、早期釈放に結びつくでしょう。さらに勾留に進んでしまったとしても、検察官が起訴・不起訴の判断を下すまでに示談が成立すれば、不起訴処分の獲得が期待できるでしょう。
つまり、示談の効果は、早ければ早いほど高まります。事件の捜査や処理が進んでしまう前に、刑事事件の解決実績がある弁護士に相談して示談交渉を進めてもらいましょう。示談交渉を弁護士に一任すれば、被害者の警戒心を和らげてスムーズな交渉が実現できる可能性があります。また、弁護士が代理人に立つことで、不当に高額な示談金を請求される事態も回避できるでしょう。
5、まとめ
友人・知人・家族や親類などの間柄でも、口論から喧嘩に発展してしまい、相手に暴力を振るってしまうケースはめずらしくありません。どのような理由があっても相手に暴力を加えていたり、怪我をさせたりしていれば法律に照らすと犯罪になるので、警察の呼び出しには素直に応じる必要があります。
警察からの呼び出しに不安を感じるなら、ただちに弁護士に相談しましょう。事件の状況や被害の程度などから、呼び出しを受けたあとの流れや逮捕の可能性などのアドバイスが期待できます。
喧嘩を原因とした刑事事件の逮捕や刑罰に不安を感じているなら、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスにご相談ください。警察からの呼び出しに関するアドバイスや被害者との示談交渉などの弁護活動で、事件解決まで親身にサポートいたします。また、逮捕・起訴が予想される状況でも、苦しい状況を回避するために全力を尽くします。まずはベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスまでご一報ください。
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