業務命令違反を理由に解雇されたら? 確認すべきポイントを解説
- 不当解雇・退職勧奨
- 業務命令違反
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会社は労働者に対して業務を遂行するために必要な業務命令をだすことができますが、業務命令であれば必ず従わなければならないわけではありません。
業務命令であっても、必要性が認められない嫌がらせのような命令であれば、労働者がそれに従わなかったとしても解雇の正当な事由にはなりません。
岸和田を管轄する大阪地方裁判所でも、業務命令違反などを理由に企業が従業員を解雇したケースについて、解雇は無効であるとする労働裁判の判決が平成30年9月にでています。
もっとも、どのような業務命令に従わなければならないのか、従う必要がないのかを判断するのは迷いやすいところです。そこで今回は、業務命令違反で解雇された場合や、解雇されそうなときに確認すべきポイントについて、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説していきます。
1、会社は客観的に合理的な理由がないと解雇できない
業務命令違反を理由とする解雇について考えるとき、明確な根拠がなければ、会社は労働者を簡単には解雇できないことを知っておくことが大切です。
会社が労働者を解雇するには、解雇せざるを得ないような客観的に合理的な理由を示す必要があります。給料分の働きをしていない、反論して上司に従わない、景気が悪いからなどの理由は、客観的に合理的な理由とはいえません。
会社が労働者を解雇する理由はさまざまですが、就業規則や雇用契約に基づいた合理的な理由や、客観的な証拠、厳格な要件を満たして初めて、労働者を解雇することが認められます。
たとえば、労働者が重大な問題を起こしたことを理由に懲戒解雇する場合でも、長期間の無断欠勤、会計での不正行為、犯罪で逮捕・起訴されたなどの、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性(労働契約法第15条)が必要です。
2、会社がもつ権利、業務命令権とは?
会社は労働者に対して業務命令を下すことができますが、嫌がらせに近い命令などは命令権の範囲外です。その仕組みを解説していきます。
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(1)業務命令権と業務命令について
業務命令権とは、会社が業務を遂行するために労働者に対して命令を行うことができる権利です。この業務命令権に基づいて会社が労働者に行う命令が、業務命令です。具体的には、残業、休日労働、出張などが業務命令にあたります。なお、採用、転勤、人事異動などは人事権となります。
業務命令権を有する根拠となるのは、会社と労働者で締結される労働契約(雇用契約)です。したがって、労働契約にのっとり、会社が適切な業務命令を発した場合、労働者は基本的にこれに従う義務があります。労働契約を締結した場合、労働者は会社に対して労働力を提供する義務を負うからです。
労働者が正当な理由なく業務命令を拒否した場合、業務命令違反として懲戒処分を受ける可能性があります。たとえば、会社から業務に必要な3泊4日の出張を命じられたにもかかわらず、単に行きたくないという理由で拒否するなどです。 -
(2)業務命令権の範囲
業務命令権はあくまで業務の遂行に必要な範囲で会社に認められるものです。業務命令権があるからといって、会社は労働者に対してどんな命令でも下せるわけではありません。
会社が下した命令が適正な業務命令の範囲内といえるかについては、まずは労働契約で合意されている内容の範囲内であることが必要です。
次に、業務命令の内容に必要性や合理性があることが必要です。命令の内容に必要性や客観的な合理性がない場合は、業務の遂行に必要とはいえないからです。
業務命令の範囲を超える無効な命令が下された場合、その命令は労働者に対する拘束力がありません。労働者は命令を拒否することができ、命令を拒否したことは懲戒処分の対象にはなりません。
3、業務命令が無効になる場合とは?
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(1)無効な業務命令になりやすいケース
では業務命令が無効になるのは、どのようなケースでしょうか。
一般的には以下のものがあります。- 労働基準法などの法令に違反する命令
- 労働契約や就業規則に違反する命令
- 贈賄や虚為報告などの違法行為の命令
- 選挙の投票を指示するなど、自由を侵害する命令
- 罰として書き写しをさせるなど、人格権を侵害する命令
- 性別や国籍など、不当な差別に基づく命令
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(2)嫌がらせにあたる命令には従う義務がない
会社が嫌がらせ、いわゆるパワーハラスメントにあたる業務命令をした場合も、無効な命令である可能性が高くなります。
たとえば、以下のようなケースです。- 管理職の横領行為を見逃すよう命令された
- 代替要員がいるにもかかわらず、休暇中に出勤を命令された
- 十分な技能があるにもかかわらず、長期にわたる研修の受講を命令された
- 退勤後に労働組合の懇親会に参加しないよう上司から命令された
- 休憩もなく就業規則をひたすら書き写しさせられた
などは、会社の業務遂行に必要な行為とはいえません。
また、本人への懲罰や、他の社員に対する見せしめのような目的で嫌がらせの命令を行った場合などは、労働者の人格権を侵害する違法な行為として、不法行為の損害賠償の対象になる可能性があります。
いずれにせよ、業務命令権の範囲を超える命令に労働者は従う義務がないため、きっぱりと拒否することができます。また、無効な命令を拒否したことを理由に、会社が業務命令違反として懲戒処分や解雇をするのは違法になります。
4、退職を迫られたときの対応方法
業務命令に従わなかったことにより会社から退職を迫られた場合には、どうすべきなのでしょうか。対応方法をご紹介します。
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(1)退職勧奨とは
会社が従業員に対して退職をすすめることを、退職勧奨(たいしょくかんしょう)といいます。社長や上司に呼び出されて、「この会社に向いていないので環境をかえてみたらどうか」や「他の会社のほうが向いているのではないか」などの言葉とともに退職をすすめられます。
なお、退職勧奨を受けて退職するかどうかは労働者の自由ですし、退職勧奨に従わなかったことを理由に懲戒処分をすることも認められません。 -
(2)なぜ退職勧奨が行われるのか
退職勧奨はあくまで誘導でしかなく、法的に退職を強要できるものではありません。そのため、まるで従業員のことを考えているような言い回しですすめてくることもあります。
それでは、なぜ退職勧奨が行われるのでしょうか。
企業において退職勧奨が行わる理由のひとつは、強制的に労働者を解雇するのは非常に困難だからです。企業が労働者を解雇するには、法令上さまざまな要件を満たす必要があり、違法な解雇と判断されれば、解雇が無効となるだけでなく、損害賠償金を支払わなければならない可能性も生じてきます。
その点、退職勧奨という形で労働者に退職を促し、労働者が自ら退職すれば、企業が訴訟を提起されるリスクもありません。退職勧奨を受けて労働者が退職した場合、基本的には労働者が自分の意思で任意に退職したことになるからです。
厳しい基準をクリアしなくても労働者を実質的に退職させられることが、退職勧奨が行われる理由のひとつです。 -
(3)退職勧奨にどう対応するか
勤めている会社から退職勧奨を受けた場合、重要なことは、自分には退職する意思がないことをはっきりと表明することです。退職勧奨はあくまで退職の誘導にすぎないので、本人が辞めないという意思を表明すればそれ以上のことは要求できません。
退職勧奨を受けたときに注意すべきなのは、弱気にならないことです。退職する意思を表明したと受け取られかねない言動をしないように注意が必要です。
退職勧奨を受けたことで必要以上に感情的になることも注意しましょう。怒りにまかせて「こんな会社自分から辞めてやる」などと言ってしまうと、不利になる可能性が高まります。
また、退職勧奨を受けた場合は、言動だけでなく、社内メールなどで退職する意思があると判断されるような文章を残さないように注意しましょう。
5、不当解雇だと思ったときに弁護士に相談するメリット
会社の行為は、退職勧奨にあたるのか、どう対応したらよいのか悩んだら、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
以下に、弁護士に相談する具体的なメリットをご紹介します。
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(1)解雇撤回のための適切なアドバイスが受けられる
会社に解雇されたものの不当解雇だった場合、弁護士に相談することで解雇の不当性を法的な観点から主張し、会社に解雇を撤回してもらうよう、弁護士を通して要請することが可能です。
また、解雇が正当かどうかの適切なアドバイスをしてもらうこともできます。自分では不当解雇だと思っていても、実際には正当性のある解雇の場合があるからです。労働問題は、労働者ひとりひとり異なる背景があります。状況を整理し具体的なアドバイスを受けることで、精神的な負担も軽減するでしょう。 -
(2)会社との交渉を任せられる
弁護士は依頼者の代理人として相手と交渉することができます。依頼された事柄の範囲内で、本人の同伴を必要とせずに行動できるので、会社との交渉を弁護士に任せることも可能です。
法的な知識なしに自力で会社と交渉するのは難しく、相手が話し合いの場を設けてくれない場合も少なくありません。法律の専門家である弁護士が交渉すれば、相手も真剣に交渉に応じてくれる可能性が高くなります。
また、仕事を辞めることを会社から強要された場合などは、心ない言葉によって傷つき、顔を合わせるだけで大きなストレスを感じたりすることもあるでしょう。弁護士が代わりに交渉することで、そうした精神的負担を軽くすることができます。 -
(3)証拠を収集しやすくなる
不当解雇について会社と争う場合は、不当な理由で解雇されたことを客観的に証明できるような証拠があることが重要になります。突然解雇を告げられた場合などは、証拠をどのように集めればいいか分からないことも少なくありません。
証拠の例としては、退職勧奨や違反と思われる業務命令のメール、雇用契約書、就業規則、解雇通知書、解雇理由証明書、人事評価書、賃金規定などがあります。弁護士は、何が有力な証拠になるのかのアドバイスをするほか、必要に応じて会社へ解雇理由証明書を請求するなど、交渉に必要な証拠集めのお手伝いをします。
6、まとめ
会社は労働契約に基づいて労働者に業務命令を発することができますが、業務の遂行に必要な範囲で認められる権能です。労働契約の合意内容の範囲外の命令や、命令の内容に必要性や合理性が認められない場合は、適正な業務命令には該当しません。
必要性や合理性が認められない嫌がらせのような業務命令に対しては、従業員は命令に従う必要がなく、会社は命令違反を理由に懲戒処分や解雇をすることはできません。
不当な業務命令違反を理由とする解雇でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスにご相談ください。経験豊富な弁護士が問題解決のためにサポートいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています