有給休暇の理由を聞かれるのは違法? 有給取得拒否への対処法
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「有給休暇の申請で理由を記載しなかったら有給取得を拒否された」「有給取得には一定の理由しか認められないといわれた」などと有給休暇の理由が問題になることがあります。
こうした労働条件に関する問題は、社内で解決できない場合には労働基準監督署などに相談することもひとつの選択肢となります。
平成29年度には、大阪府の労働基準監督署などには11万4492件の労働相談が寄せられています。こうした労働問題を未然に防いだり早期に解決したりするためには、労働者と会社双方が労働問題に関する正しい知識と理解をもつことが重要です。
本コラムでは、「有給休暇の理由を聞くのは違法か」「有給取得を拒否された場合にはどう対処すべきか」をベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説していきます。
1、有給休暇の取得は労働者の正当な権利
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(1)会社には有給休暇を与える義務がある
有給休暇は、労働基準法第39条1項において、
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない
と規定されています。
つまり会社は一定の条件を満たした労働者に対して有給休暇を与える義務を負っており、労働者には有給休暇を取得する正当な権利があるということです。 -
(2)2019年から始まった新ルール
働き方改革法案の成立により、2019年4月1日から、新しい法令が義務付けされました。日本のすべての企業において、年次有給休暇が10日以上発生した社員に対して、最低でも5日間の有給休暇を消化させなければならなくなったのです。
年次有給休暇の発生日から1年の間に取得させること、また、会社が時季を指定して確実に取得させることなども義務付けられています。違反した場合には労働基準法違反として30万円以下の罰金に処される可能性があります(労働基準法第120条第1号)。
このように、有給休暇取得率の低い日本においても、労働者の正当な権利である有給休暇の取得が実現できるような社会へ変化する動きがみられます。
2、有給休暇の申請で理由を聞かれるのは違法?
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(1)会社がもつ有給休暇の時季変更権
有給休暇の取得は労働者の正当な権利なので、本来は、有給休暇の申請に理由は不要であるはずです。
しかし、「申請理由を記載しなかったら有給取得を拒否された」というケースも聞かれます。なぜ、何のために有給休暇の申請に理由が必要とされることがあるのでしょうか。
それは、労働基準法第39条5項が関係しています。
労働基準法第39条5項では、使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
と規定しています。
つまり会社には、運営に支障がでる時季に有給休暇の取得を請求された場合、時季を変更できる時季変更権があるのです。
希望する有給の休暇日が、事業の運営を妨げると判断される時期にあたってしまった場合、会社は有給を希望する理由から「時季の変更が可能であるか」などを判断します。そのため、有給休暇の申請で理由が必要になることがあるのです。
しかし、これはあくまで時期の変更を促す権利であり、有給休暇自体を拒否する権利ではありません。もし時期の変更を求められたら上長などに相談し調整をしましょう。 -
(2)プライバシーの侵害になれば違法になる
前述のように、会社には時季変更権があるので、行使の範囲内で有給休暇の理由を聞くことは違法にはならないと考えられています。
行使の範囲内とは、- 有給休暇を取得されると営業に支障がでる場合
- 会社が有給休暇取得に向けた配慮をしている場合
の両方を満たすことです。
しかし、時季変更権とは関係なく、範囲を超えて有給休暇の理由を聞くことは違法となる可能性があります。
たとえば「プライバシーを詮索してしつこく理由を聞かれる」「理由をいわないことで、直ちに取得を拒否される」「時季変更権を行使する必要性がないことが明白なのに、理由を聞かれる」などというケースは、違法となる可能性があるといえるでしょう。
また、確認することで労働者が畏縮し、結果として休暇取得がしにくい職場環境となることは、取得を妨げる行為として違法と見なされることもあります。
3、実際に時季変更権を行使、または賃金を下げられたら
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(1)時季変更権の行使が認められなかったケース
有給休暇の取得は労働者の正当な権利であり、申請理由の有無を問わず、時季変更権と判断されるものを除き、認められるべきです。
実際に、代替勤務者がいるにもかかわらず会社側が時季変更権を行使しようとしたケースにおいて、最高裁は労働基準法違反との判決を下しています。判例では、「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり」、「休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく、許されないもの」としています(最高裁昭和62年7月10日判決 弘前電報電話局事件)。
なお、会社が有給休暇を与える義務を定めた労働基準法第39条1項に違反すれば、同法第119条によって6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります。 -
(2)もし賃金を下げられたら違法か?
労働基準法附則第136条では、
使用者は、第39条第1項から第4項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
と規定しています。
したがって、会社が有給休暇を取得したからといえって労働者の賃金を減額したり労働者の査定に影響させたりするなどの不利益な取り扱いをすることも違法となります。
4、有給休暇の取得を拒否されたらどうすべきか?
有給休暇の取得を拒否された場合には、次のような対処法が考えられます。
(1)まずは社内で解決をはかる
有給休暇を申請したが、会社が時季変更権の行使によって拒否しているのであれば別の日程での取得を交渉してみるとよいでしょう。
もし社内に労働組合があれば、相談することもひとつの選択肢となります。
時季変更権は、事業の正常な運営を妨げる場合においては有給取得日を他の時季に変更することができるという、あくまでも例外的なものです。
拒否された有給取得予定日が時季変更権を行使すべき時期でないことが明白であったり、日程の変更さえ認められなかったりする場合には違法となります。-
(2)労働基準監督署に相談する
労働基準監督署では、労働基準法に関連する労働問題を中心にさまざまな分野の相談を受付けています。大阪府の労働基準監督署は13か所あります。
ただし、明白な証拠がないと労働基準監督署が動くことは難しいと考えられます。以下のものを用意しましょう。- 有給休暇の取得が認められなかったというメール・音声等のやりとり
- 出勤日数や有給休暇の消化状況の記録など
- 就業規則
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(3)弁護士に相談する
会社が有休取得の理由を聞いたり、拒否したりすることが、時季変更権にあたるのか判断しかねる、または自分では会社に確認しにくい、というケースもあるでしょう。その場合は労働問題に関して経験豊富な弁護士に相談してみることをおすすめします。
会社が時季変更権を正当に行使しているのか、労働者はなにをすべきか、どのように動けば穏便な解決ができるかなど、置かれた立場に配慮しつつ、親身なアドバイスを受けることができるでしょう。また、有給休暇取得のための内容証明書を発行したり、代理人として会社と交渉したりすることもできます。
5、まとめ
本コラムでは、「有給休暇の理由を聞かれるのは違法か」「有給取得を拒否された場合にはどう対処すべきか」を解説していきました。時季変更権とは関係なく、必要かつ相当な範囲を超えて有給休暇の理由を聞かれることは、違法になる可能性があります。ご自身で解決できなくてお困りの場合は、労働問題の経験豊富な弁護士のアドバイスを受けると最善の解決策が見つけられる可能性が高まるでしょう。
ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士は、有給取得などの労働問題のご相談に応じています。ご希望にそった解決ができるよう尽力いたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています