派遣社員は雇い止めを拒否できるか? 違法な派遣切りのケースとは
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大阪労働局が公表している「令和元年度個別労働紛争解決制度施行状況」によると、令和元年度の大阪府での総合労働相談件数は13万1444件であり、民事上の個別労働紛争相談件数は、2万434件でした。そのなかで雇止めに関する相談は1312件あり、全体のおよそ5%を占める割合でした。
派遣社員は期間が定められていることから、満了を理由に契約の終了はやむを得ないと考える方も多いですが、契約更新の状況によっては派遣社員であっても雇い止めを拒否することができる場合があります。
今回は、派遣社員が雇い止めを拒否することができるケースについて、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、雇い止めが増加する背景
非正規労働者の雇い止めが増加しているといわれています。雇い止めが増加している背景には何があるのでしょうか。
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(1)雇い止めとは
雇い止めとは、派遣社員や契約社員など、有期雇用契約を締結している労働者に対して、契約期間満了にあたって、契約の更新を行わず、労働契約関係を終了させることをいいます。
派遣社員の場合、まず派遣元の会社との間で労働契約を締結し、その後、派遣先の会社と派遣元との労働者派遣契約に基づいて派遣先の会社に派遣されて就労します。
そのため、派遣社員と派遣先の会社との間には直接の労働契約関係は存在しませんので、派遣先の都合によって労働者派遣が終了したとしても、それは雇い止めにはあたりません。しかし、派遣元の会社との間で期間の定めのある有期雇用契約を締結している労働者が、契約期間満了にあたって契約の更新をしてもらえない場合には、雇い止めにあたります。
なお、有期雇用契約は、期間満了によって終了することが前提の契約ですので、雇い止めをされたからといって、直ちに違法になるというわけではありません。労働契約法19条に反する雇い止めがなされた場合、雇い止めが無効になる可能性があります。 -
(2)新型コロナウイルスの影響によって雇い止めが増加
厚生労働省では、都道府県労働局の聞き取り情報や公共職業安定所での相談・報告などを基にして、新型コロナウイルス感染症の影響による「雇用調整の可能性がある事業所数」と「解雇等見込み労働者数」の動向を集計しています。
この集計結果によると、令和3年5月21日時点での新型コロナウイルスによる雇用調整の可能性がある事業所は12万9480所、解雇等見込み労働者数は10万4532人、解雇等見込み労働者数のうち非正規雇用労働者数は、4万8798人となっています。非正規雇用労働者数には、契約社員だけでなく派遣社員も含まれていますので、新型コロナウイルスの影響によって、派遣社員の解雇・雇い止めに関しても深刻な状況となっていることがわかります。
現在も緊急事態宣言や、まん延等防止措置によって企業や事業者の活動が制約されていますので、雇用調整による人件費削減のために、今後も派遣社員を含む非正規社員の解雇または雇い止めが増加していくことが予想されます。
2、派遣社員が雇い止めを拒否できるケース
派遣社員が雇い止めを拒否することができるのは、どのようなケースなのでしょうか。以下では、厚生労働省が定める雇い止めに関する基準と労働契約法19条の雇い止め法理について解説します。
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(1)雇い止めの判断基準等
有期労働契約についての雇い止めに関するトラブルを未然に防止するために、厚生労働省は、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」という告示を出しています。この告示に違反したからといって、直ちに雇い止めが無効になるというものではありませんが、雇い止めの有効性を判断する際の一定の指針になります。
同告示では、使用者に対して以下の事項を求めています。
①契約締結時の明示事項
使用者(雇用する側)は、有期労働契約を締結する際には、以下の内容を有期契約労働者に対して明示しなければなりません。労働条件通知書などの書面により明示することが望ましいとされています。- 契約の更新の有無の明示
- 契約更新の判断基準の明示
②雇止めの予告
使用者は、有期労働契約を更新しないときには、少なくとも契約期間が満了する日の30日前までに、その旨を労働者に予告しなければなりません。ただし、対象は、1年を超えて雇用されているか、有期労働契約の更新が3回以上されている労働者に限られます。
③雇止めの理由の明示
使用者は、雇止めの予告後または雇い止め後に、労働者が雇止めの理由についての証明書の請求をした場合には、遅滞なく証明書を交付しなければなりません。
④契約期間についての配慮
使用者は、1回以上契約の更新をし、かつ、1年を超えて雇用している有期契約労働者に対しては、契約の実態およびその労働者の希望に応じ、契約更新時に契約期間をできる限り長くするよう努力義務が課されています。 -
(2)雇い止め法理
有期労働契約は、契約期間満了によって終了することが予定されている契約ですので、期間満了によって使用者が契約を更新せずに、労働契約関係を終了させたからといって雇い止めが直ちに無効になることはありません。
しかし、複数回更新が繰り返されるなどして、契約更新に対する期待が生じている場合や実質的に期間の定めのない労働契約と変わりない状態となっている場合には、雇い止めが無効になることがあります。これを「雇い止め法理」といい、労働契約法19条によって規定されています。
どのような場合に雇い止めが無効となるのかの具体的な基準については、労働契約法19条には明記されていませんが、過去の裁判例によると、以下のような6つの基準を総合考慮して判断することになります。- 業務の客観的内容(従事する仕事の種類、内容、勤務形態)
- 契約上の地位の性格(地位の基幹性、臨時性、労働条件の正社員との同一性の有無)
- 当事者の主観的態様(継続雇用を期待させる言動、認識の有無、程度)
- 更新手続き・実態(契約更新状況、契約更新時の手続きの厳格性の程度)
- 他の労働者の更新状況(同様の地位にある労働者の雇い止めの有無)
- その他(有期労働契約を締結した経緯、勤続年数・年齢などの上限設定の有無)
3、派遣の雇い止めで悩んだら弁護士に相談を
派遣元から雇い止めをされた派遣社員の方は、まずは、労働トラブルの解決実績がある弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)適正な雇い止めかどうかを判断できる
派遣社員は、派遣元との間に労働契約関係がありながら派遣先企業に派遣されるという複雑な雇用形態です。雇い止めの有効性についても、派遣先企業との関係ではなく、派遣元会社との間の契約更新の実態などを踏まえて判断されることになります。
適正な雇い止めか違法な雇い止めかについては、過去の裁判例による判断基準を踏まえて検討することになりますが、どれかひとつの要素を満たせば違法という判断ではなく、総合的に判断して違法か適法かを見極めなければなりません。
このような法的な判断を一般の労働者個人が行うことは非常に困難です。そのためには、労働問題の実績がある弁護士に相談をする必要があるといえます。 -
(2)雇い止めを拒否して損害賠償請求ができる
派遣元からの雇い止めが違法であった場合には、派遣元との間に引き続き労働契約関係が認められますので、雇い止めをされた労働者は、労働契約上の地位に基づき、本来支払われるべきであった賃金を請求することができます。
弁護士に依頼すれば、会社に対する交渉や損害賠償請求は一任することができます。適正な賠償金の算出や交渉、裁判手続きまで代行できるので、労働者の精神的・時間的負担は相当軽減されることでしょう。
4、まとめ
派遣社員であっても雇い止め法理が適用され、不当な雇い止めを受けた場合には、それを拒否することが可能です。
派遣元から雇い止めをされた派遣社員の方で、適法な雇い止めかどうか疑問が生じた場合には、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスまでお気軽にご相談ください。労働トラブルの解決実績が豊富な弁護士が、まずは丁寧にお話を伺います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています