時間外労働(残業)の上限規制は45時間│超えたら残業代は請求できる?
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残業が常態化している会社で働いていると、残業時間の上限について意識するのは難しいかもしれません。しかし、法律上、残業時間には上限があります。そのため、上限を超える残業は、違法かつ労働基準監督署による指導・監督の対象となります。
また、長時間の残業が続くと心身ともに疲弊してしまい、過労死などのリスクも高まりますので早めに対処することが大切です。
大阪労働局が公表している「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」によると、令和2年4月から令和3年3月までに、712事業場に対して監督指導を実施したところ、551事業場で労働基準関係法令違反の事実が認められました。主な違反内容としては、違法な時間外労働があったものが最も多く296事業場で違反が見つかりました。
今回は、「時間外労働(残業)の上限規制」、「36協定」、「上限を超えた場合の残業代請求」等について、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスの弁護士が解説します。
1、残業時間に上限はある?
残業時間には、労働基準法において上限が定められています。そのため、上限を超えて残業をさせられている場合には違法な労働となります。
労働時間の原則と残業時間の規制について説明します。
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(1)労働時間の原則
労働者の労働時間については、労働基準法によって、
- 1日8時間
- 1週40時間
と定められています。これを法定労働時間といいます。
原則、この法定労働時間を超えて労働者を働かせることはできません。残業は、あくまでも例外的な場合に認められるものになります。
残業の例外である36協定については「2、改めて理解しておきたい『36(さぶろく)協定』」で詳しく解説します。 -
(2)残業時間の規制
法定労働時間を超えて、合法的に残業するには、使用者と労働者代表者が36協定を結ぶ必要があります。
厚生労働大臣の告示によって、36協定によって認められる時間外労働は、- 月45時間
- 年360時間
とされています。
残業時間の規制に違反すると、使用者に対して、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになります。罰則付きの規制により、残業時間の上限規制の実効性を高めることが目的です。
2、改めて理解しておきたい『36(さぶろく)協定』
残業には、「36協定」の締結が必要となります。そもそも、36協定とはどのようなものなのでしょうか。以下では、36協定に関する基本事項について説明します。
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(1)36協定とは
36協定とは、正式名称を「時間外・休日労働に関する協定届」といいます。
使用者(会社)が労働者に対して法定労働時間を超えて働かせる場合には、事前にこの協定届を締結して、労働基準監督署に提出する必要があります。この協定は、労働基準法36条に基づいていることから、一般的に「36(さぶろく)協定」と呼ばれています。 -
(2)36協定の締結方法
36協定は、使用者と労働者の過半数で組織する労働組合との間、または使用者と労働者の過半数を代表する社員との間で締結します。
また、36協定には、以下の事項を定める必要があります。- 時間外労働、休日労働の対象となる労働者の範囲
- 対象期間
- 時間外労働、休日労働をさせることができる場合
- 時間外労働の時間、休日労働の日数
- 時間外労働、休日労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項
使用者と労働者の代表者との間で締結された36協定については、36協定自体ではなく、様式第9号という所定の書式を利用して、労働基準監督署に提出します。
3、月45時間を超える残業でも違法にならないケース
月45時間の上限規制を超えても違法にならないケースがあります。以下より詳しく解説します。
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(1)臨時的な特別の事情がある場合
36協定で定めることができる残業時間の上限は、前述の通り、月45時間・年360時間までです。
ただし、思わぬ業務量の増加に伴って、臨時的に限度時間を超えた労働力が必要になる場合には、特別条項付きの36協定を利用することによって、例外的につき45時間、年360時間を超えた労働が認められています。
また、特別条項付きの36協定を利用する場合にも残業時間の上限が定められていますので、以下の範囲内であることが必要となります。- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働および休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均がすべて1月あたり80時間以内
- 時間外労働が45時間超過してよいのは、年6か月に限る
なお、労働基準法改正によって、特別条項付きの36協定を利用する場合でも残業時間の上限が設けられ、違法な残業をさせた使用者に対しては、罰則が適用されます。
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(2)残業時間の上限規制の適用が猶予・除外になっている場合
特定の事業や業務については、残業時間の上限規制が猶予または除外になっているものがあります。
① 上限規制の適用猶予
令和6年3月31日まで、以下の業務については残業時間の上限規制の適用が猶予されています。- 建設事業
- 自動車運転の業務
- 医師
- 鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業
② 上限規制の適用除外
残業時間の上限規制が除外されているのは「新技術・新商品などの研究開発業務」です。
ただし、労働安全衛生法改正により、新技術・新商品等の研究開発業務については、1週40時間を超えて働いた時間が月100時間を超えると、医師の面接指導などが罰則付きで義務付けられます。
4、上限を超えて労働している場合
残業時間の定めを超えた労働をしている場合には、以下のような対応を検討しましょう。
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(1)労働基準監督署に相談
時間外労働や休日労働は、労働基準法で規制されていますので、違法な長時間労働を強いられているという場合には、労働基準法違反の疑いがあります。
労働基準監督署では、違反の疑いがある事業所に対して、監督指導を行います。残業や労働環境等に疑問を感じたら、まずは最寄りの労働基準監督署に相談することをおすすめします。
もし残業時間の上限を超えた労働が確認された場合、労働基準監督署から事業所に対して是正勧告などの措置がとられます。ただ、勧告に法的な強制力はなく、個人の未払い残業代未払いへの対応もないため注意が必要です。 -
(2)弁護士に相談
労働基準監督署では、違法状態の解消に向けた指導監督を行うのみであり、労働者の立場に立って会社と交渉をしてくれるわけではありません。
残業時間の上限を超えた労働に対しては、残業代が未払いになっている可能性もありますので、未払い残業代を請求するためにも弁護士に相談をすることをおすすめします。
弁護士は、労働者に代わって会社と交渉し、違法な労働時間の解消だけでなく、未払いの残業代の請求も行うことができます。残業代請求に必要な証拠収集のサポートや面倒な残業代の計算についても弁護士が行いますので安心してお任せください。
なお、会社から「管理職だから残業代は発生しない」と言われている場合にも、残業代を請求することができるケースがあります。
法律上、「管理監督者」にあたる場合には、残業代の支払いは不要になりますが、管理監督者といえるためには、単に「課長」、「マネージャー」といった肩書だけで判断するのではなく、経営者と一体的な立場にあるかなど実態を踏まえて判断することになります。
そのため、残業代が支払われていない管理職の方も実際には残業代の支払いが必要な立場であることもありますので、まずは弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
残業時間には、労働基準法上、上限が定められていますので、長時間労働でお悩みの方は、ご自身の労働時間を確認して法律上の上限を超えていないかどうかを確認してみましょう。
違法な長時間労働が行われている場合には、未払いの残業代も高額になっていることがありますので、お早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。
残業や残業代のことでお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 岸和田オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています